第5話 勇者養成学校・潜入作戦
魔界国境警備本部の作戦会議室。壁に掛かった巨大な魔力スクリーンには、人間界のニュース番組が流れている。
アナウンサー(画面内)
『速報! 魔界の元貴族アイゼンハワードに懸賞金十万金貨が設定されました! “捕らえた者には爵位と土地”という破格の条件に、勇者志望者たちが続々と――』
アイゼンハワードは、手元のティーカップを握りしめたままピクリと眉をひそめた。優雅に見せようとしたが、手がわずかに震えている。
「爵位に土地だと? わしを……狩猟対象にでもしたつもりか……。
しかも“老害魔族の暴走”とは。ふむ、品のない誤報じゃな」
さっちゃん(リリス・バイト)はソファに寝転がり、タブレットをいじりながら鼻を鳴らす。
「“#アイゼンチャレンジ2025”が人間界でトレンド1位だよ。
倒せば金、逃げられてもバズるって、今やエンタメ感覚だね。地獄かよ」
スティ・ゴルザックは黙って壁にもたれ、肩に担いだ大槍をポンと鳴らす。
その眼は真剣だった。
「最近、国境の連中の質が明らかに変わってきてますぜ。
“本物の戦士”……あれはただのイキリ配信者じゃねぇ」
ノルド・ミルカは指先で髪を弄びながら、テーブルの上に拡げた地図をじっと睨む。
その表情は冷静で、美しさの中に鋭さを含んでいる。
「とくに“西部神聖勇者学校”。あそこ、優等生が現地訓練名目で国境に入り込んでる。
訓練って名目で、魔族狩りやってるのよ。教師公認で」
さっちゃんが起き上がり、ニヤリと笑って制服を取り出す。
それは黒い詰襟の“学ラン”だった。胸には“YUSHA ACADEMY”の刺繍。
「というわけで、これ着て人間界の学校に潜入してね、アルおじ☆」
アイゼンハワードは、ガタッと立ち上がって絶叫した。
顔面は真っ青だ。
アイゼンハワード
「なっ……学ラン!? 貴様、わしの尊厳をなんと心得る!
わしは魔界貴族ぞ!? なんじゃその“3年C組転校生設定”とは!!」
さっちゃんは制服の内ポケットから何やら取り出しながらニヤリ。
さっちゃん
「大丈夫。抗魔素材で縫ったから安全。しかも、マントに保湿成分を織り込んであるし。アルおじの“中年肌”でもしっとり安心♪」
アイゼンハワード(苦悶)
「わしの……肌ケアが情報漏洩しておる!?」
スティが制服をしげしげと見ながら、肩をすくめて笑う。
「案外、似合いそうっすよ。昔の教本に載ってた“銀の鬼将アイゼン様”が、学生服で登場とか、逆に新しいっす」
アイゼンハワードは顔を両手で覆う。
「この年で……“転校生”とは……どれほどの羞恥プレイか、貴様ら理解しておるのか……!」
ノルドはほんの一瞬だけ頬を染めたが、すぐ真顔に戻る。
表情に出すまいと、メガネの位置を直してごまかす。
「……学ラン姿、悪くないかも。任務としてなら、ね」
さっちゃんが勝ち誇ったように制服を突きつける。
「裏で“勇者証明ビジネス”やってる連中を炙り出すチャンス。
勇者学校に紛れ込んで、内部から証拠を取ってきて」
アイゼンハワードはついに制服を手に取り、しみじみと見つめた。
「……よかろう。このわしを、そこまで言うならば。
魔界の品位と誇りを賭け、制服でも着てくれようぞ」
さっちゃん(口元を隠して笑いながら)
「よっ、爆誕☆“アル・シュトラウス”、17歳、転校生! 青春バトル、開幕~!」
「やめぃッッ!!!」
こうして、471歳の老貴族アイゼンハワード。
“学ラン転校生”として、勇者学園へ潜入するという未曾有の任務に赴くこととなった。




