第6話 カチコチモンスター
星の塔――
俺たちはその中に足を踏み入れていた。
勇者アルベルト、俺、そしてシスターマリアの三人は、慎重に階層を上がっていく。
グレイス・オマリーと黒魔術師マーリンは、というと――
「お宝はあたしのもんだあああ!!!」
「ちょっと! 私の分も残しておいてくださいまし!」
二人はすでに爆進中であった。上階へ向かう螺旋通路の奥、姿はとうに見えない。
塔の構造は円筒状で、内壁に沿って階段が巻き付いている。各階にいくつもの部屋と宝箱があり、まさに冒険の王道といった趣だ。
塔の五階層目――
その一室で、俺たちは“それ”と遭遇した。
「ん? なにか……光ってる?」
マリアが指差す先、部屋の奥にふわりと浮かぶ光の結晶体が二つ。
ごつごつした鉱石のような身体。
ぎらりと輝く目。
そして、どこか愛嬌のある無表情な顔。
カッチンとコッチン
この世界で数%の確率でしか現れない、超レアモンスター!!
「うわああああああっ!!!」
「マジで!? カッチンとコッチン!? ガチで!?」
「で、出たあああぁぁあっ!!」
パーティー全員が跳ね上がるように歓喜した。
名前:カッチン
体力:8
攻撃:8
防御:999
素早さ:999
この世界で、硬い鉱物より産まれしモンスター 倒すと凄い経験値がもらえる。
名前:コッチン
体力:8
攻撃:8
防御:999
素早さ:999
この世界で、硬い鉱物より産まれしモンスター 倒すと凄い金貨がもらえる。
この世界において、“倒せれば超ウマい”レアモンスター。
しかしその逃げ足は凶悪で、しかもどんな攻撃も弾く異常な硬さを持っている。
「見つけたら、一撃で仕留める。それしかねえ……」
俺は【スキル:空気のような存在】を発動。
ボス戦では無効だが、今はただのレア敵だ。完全に気配を消し、音も立てず、影すら薄くする。
「リスク、あれ……!」
シスターマリアが小声で指さす。
部屋の奥、燐光に包まれた鉱石のような二体のモンスターが浮かんでいた。
無表情で、しかしどこか愛嬌のある顔つき。
カッチン「……」
コッチン「コッチーン♪」
その瞬間、時が止まったように俺は駆けた。
カッ!
足音すら残さず、背後へと滑り込む。
「チクッ……」
まずは一撃。
「チクチクッ!」
さらに二撃、三撃と、急所を正確に狙い連続で毒針を突き刺す。
「……ぐるる……!」
カッチンの動きがピタリと止まった。
目が虚ろになり、全身が震える。
「クリティカルヒット、入ったな……!」
カッチン「カァァァ……」
バシュン!!!
カッチンの体が光の粒になり、塔の空間に霧のように散った。
「一体目、完了」
俺は静かに毒針を納めた。
「リスクすごっ!かっけー!!」
アルベルトが感嘆するが、まだ終わっていない。
残るは
「コッチーン♪」
コッチンがくるりとターンし、ウィンクを飛ばしてきた。
「な、なにっ……かわいい……」
「くっ……こんなはずでは……」
マリアとアルベルトが、思わず心を奪われる。
「誘惑スキル!? 小癪な……!」
アルベルトが剣を構え突撃するが――
ヒュン!
一瞬で横に飛び退き、攻撃をかわされるコッチン。
「ふふん♪」
そして、キュルンとポーズを決めて
「やべ、逃げるぞッ!!」
タッタッタ――ッ!!!!
コッチンは猛スピードで視界の彼方へ消えた。
「……逃げられた」
「誘惑、ずるいです……」
マリアがふらふらと天を仰ぐ。
それでも
「よっしゃ、経験値すげぇ!」
「お財布もパンパンになる予定だったのにぃ……」
全員のやわらかに身体が光り輝き、力がみなぎる。
パーティー全員が3レベルアップ!めちゃくちゃレベルアップした。
そして――
「……新しい魔法を覚えました……光が降りてきます」
シスターマリアが目を閉じると、白い光がその手に宿る。
新魔法を習得!
光と祈りの魔法、究極の白魔術それは、やがてこの塔の最上階で“運命”を変える魔法となることを、まだ誰も知らなかった。
「カチコチ狩り……悪くない」
俺は毒針を再び整えながら、呟いた。
「次もあのチクチクで頼むぜ!」
階段はまだ続いている。
この塔には、もっと強敵がいる予感が俺であった。