第12話 第49回 魔界アカデミー賞授賞式
舞台は魔界のハリハリウッド。
それは魔界最大のエンターテインメント都市。黒い月明かりに照らされるその街の中心、闇の劇場には、今宵も闇より深い熱狂が満ちていた。
漆黒のレッドカーペット――もとい、血で染まった地獄羊皮のカーペットの上を、地獄級セレブたちが次々と闊歩する。
闇の女優、グール・ベティはゴシックなドレスに血のティアラを乗せて。
首が常に肩に抱えられている伝説の監督、バフーン=レッド。
頭が七つ、それぞれ性格が違う七面脚本家サピエンス・セプタ。
魔物パパラッチたちは絶叫しながらシャッターを切り続け、記者たちは腐った羽ペンでメモを取り、SNSには「#ネクロノミコンなう」「#死ぬほど感動した」「#監督の首が落ちた瞬間泣いた」などのハッシュタグが踊っていた。
そして、ひときわ空気が震えた瞬間。
炎が巻き起こり、巨大な闇の魔法陣が天井に浮かび上がる。
その中央から現れたのは魔界最高位の存在、
魔王ガルヴァ・ネクロデス!
漆黒の王冠に燃える髑髏のマント、手には血塗られた司書の杖を持ち、壇上に姿を現すと、全員が無意識に跪いていた。
「来ちゃったよ……ほんとに来ちゃったよ魔王が……」
会場の端、魔王から2.5km離れた観覧席に潜む俺は、顔を引きつらせながらさっちゃんと並んで椅子に縮こまっていた。
「見て、あの審査員の魔眼、さっきこっち見て舌出してたわよ……絶対食べる気満々じゃん」
さっちゃんもドレス姿でそっと呟きながら、使い魔バッグの中にこっそりスタンガンを忍ばせている。
やがて、司会のミャックミャック・モギラが、全身を目玉と口で埋め尽くした姿で登場。
10本のマイク触手を広げて、魔界じゅうにその声を響かせた。
「第49回、魔界アカデミー賞・最優秀映画賞は……ッ!!」
\\ボンボンボン!ドゴン!ズドン!//
骨太鼓と絶叫合唱がうねる音楽となって会場を包む!
そして――!!
「『パイがパニック』ッッッ!!!!」
静寂。
からの、
「フゥオオオオーーーッ!!!!!」
会場全体が爆発的な熱狂に包まれ、誰かの魂が物理的に飛んだ。(バフーン監督の首がまた落ちた)
舞台に躍り出たのは、我らが出資者・アイゼンハワード!
金色のステッキをクルクルと回し、魔界製のラメスーツを着こなし、星屑のごとき美貌でスポットライトを浴びる!
両手を高く掲げて、魂の叫びを響かせた。
「バカにされた作品こそが栄光を手にするッ!それが魔界エンタメだッ!!」
会場が再び歓声の嵐になる中、下の席で見ていた俺はボソッと呟く。
「……本当にバカだったんだよ、あの映画……」
「パイが爆発して飛んできて、顔にぶつかるたび記憶を失うとか、正気の脚本じゃなかったよね……」
「人間界の映画『パイの逆襲2』と設定まで似てるって問題になったやつだしな……」
「それでも、笑ったんだよなぁ……なんか、悔しいけど……」
さっちゃんが鼻をすする。感動ではない、多分カスタードのせいだ。
魔王ガルヴァ・ネクロデスが壇上に立ち、低く呪われた声で宣言する。
「『パイがパニック』……これは魔界の“悪夢”そのものだ。我はそれを称える。これこそが、芸術である」
彼の杖の先から金色の霊体が舞い上がり、空中で黄金のパイ像が浮かび上がった。
その場にいた誰もが、目から小さなパイの大きさの涙を流したとか。
アイゼンハワードが拳を突き上げたその瞬間、パイが顔にヒット!
\\ドゴッ!!//
\\ヒューーー!!アル様にもパイが届いたーッ!!//
場内は、拍手、歓声、そして無数の飛び交うパイで地獄のようなカオスに!




