第9話 魔界プレミア上映と血のレッドカーペット
ついに迎えた、映画のワールドプレミア。
レッドカーペットならぬ「血のレッドカーペット」には、ドレスコードがまさかの棺桶指定。観客はみな、それぞれ個性あふれる自前の棺桶で登場。
見た後にショックで死ぬ可能性があるので自ら入る棺桶指定である。
「私のはヴィンテージ棺桶。曾祖母からのおさがり♡」
「俺はオーダーメイドだ!ふたが自動で開くぞ!」
「ダンボール棺桶しか買えなかった……(泣)」
パパラッチは血ヘドを吐くほど興奮し、魔界ファッション誌は「今、最も映える死に様2025」として即日特集。
映画上映が始まると、場内では奇妙な現象が
魂が、抜ける。次々と。
上映後の館内には、放心状態で白目を剥いた観客たちがゴロゴロ転がる。
記者「何が……あったんですか!?」
観客「笑いすぎて……死ぬ可能性があるので魂置いてきた……」
SNSではタグ「#魂返して」が世界トレンド1位。
配給会社には魂返還希望者の長蛇の列ができ、特設カウンターにはゾンビ秘書ルミラ・カデヴァが丁寧に対応。
(ルミラ、死んだ魚のような目で)
「お客様の魂は、ただいま“地獄の紛失物センター”にて捜索中です。3,000年ほどお待ちください」
ガブ郎は興奮して全裸で記者会見に登壇し、即炎上。
だがその熱狂は止まらず
公開8日間で興行収入100億金貨を突破!
魔界映画史上最速、「死んでも観るべき作品」と評価され、全魔界が泣いた。
(※ただし泣いたのは泣き袋を強制装着されたため)
そして、魔界初の“蘇生記念アフターパーティー”開催!?
魂を抜かれた人々は無事帰ってこられるのか?
■■■
「……ひい、ふう、みい……はい、これで最後っ!」
さっちゃんが豪快に魔界金貨をテーブルの上にぶちまけたその瞬間、屋敷中に金貨の音が高らかに響いた。あのアイゼンハワードも、珍しく額に汗をかきながら神妙な顔つきで横に立っている。
金貨の山、6000万金貨!!
魔界の会計士も思わずそろばんを落とし、ゾンビ秘書ルミラ・カデヴァは感極まって脳髄をぽろっとこぼした。
そして、会場の奥からパチンという指を鳴らす音。
現れたのはこの人、“魂の契約書”でおなじみ、メフィスト夫人!
背中に魂帳簿を背負い、ドレスは最新の“悪徳サテン2025”モデル。
その目には驚愕と、ほんのりとした計画失敗の色が浮かんでいる。
「やるじゃないの……ほんとに返してくるとは思ってなかったわ~~~!!」
※実際には返済不能を見越して魂回収の準備済み。
「ウソじゃないですかっ!?」
さっちゃんが思わず叫ぶと、ガブ郎が横で「まぁまぁ、命があるだけマシっスよ」とナイスフォロー(のつもり)。
「でも、約束は約束。借金の返済完了よ! あなたたち、マジで最高!」
そう言って、夫人は満面の笑みでアイゼンハワードたちに**祝福のドクロ花束(花言葉:騙された者の憐れみ)を贈呈。
そこにルミラ・カデヴァがパチパチと腐った手で拍手。
ガブ郎も「今夜は乾杯っスね!」とテンションMAX。
そして、カメラがクレーンで引いていく中……
魔界テレビ、地獄日報、血の時事通信がこぞって報道。
「全魔界が泣いた!“棺桶入りドレスコード”で話題沸騰の映画『サブプライム・ソウル』が公開8日間で興行収入100億金貨突破!」
「魂を抜かれるリスクも何のその!“抜かれてもいい映画”として話題沸騰」
「上映後、魂を抜かれた観客のレビューが涙を誘う。“観てよかった……って誰か言って!”」
さらに、プレミア上映会には首なしインフルエンサーや幽霊VTuber、地獄の映画評論家が勢ぞろい。
血のレッドカーペットの上には、
霊魂スモークとゾンビバンドの生演奏、死んだフリカメラマンたちのフラッシュが焚かれ、
地獄とは思えない(地獄だけど)豪華絢爛の祝祭空間が広がっていた。
そして最後に。
アイゼンハワードがぽつりとつぶやく。
「……これ、絶対まだなにかあるよな……」
さっちゃんは金貨をぎゅっと胸に抱きしめながらにっこり。
「この映画の観客は魂を賭けて観に来てね!」




