第8話 魔界SNSと炎上マーケティング
「SNSで、色々、通知が来ております」
ゾンビ秘書・ルミラ・カデヴァが、虫食いのスマホ画面を差し出す。そこには、再生回数500万回を突破した動画と、それに続く罵詈雑言のコメント群が。
【パイがパニック 予告編】
「脚本書いたやつ誰だよ」
「悪霊に失礼」
「逆に観たい」
「史上最悪で最高。映画館で焼かれたい」
さっちゃんは目を輝かせ、椅子から跳ねるように立ち上がった。
「きたわね……!大炎上ッ!!これはチャンスよッ!!」
一同が戸惑う中、さっちゃんはすでに魔界スマホを両手に構えていた。
「バズらせは炎上から拾えって言うでしょ!?(※言わない) やるわよ、ルミラ!ガブ郎!全魔界SNS連動作戦、開始ッッ!!」
【 企画名:#パニックパイチャレンジ】
動画内容:パイを顔面にぶつけながら怨霊の名言を叫ぶ。失敗すれば霊界送り。
審査員:グール監督(煙草くわえたまま寝てる)、謎の髑髏
ルミラは魔界TikTikにて、伝説の幽霊系VUber《ゆらゆらお菊ちゃん》と共演。
腐乱した頬にパイをぶつけながら、無表情で一言。
「炎上はチャンス!バズらせは地獄から拾え!」
さっちゃんのこの言葉を皮切りに、魔界映画『パイがパニック』の炎上予告編は、異界全土に飛び火した。
▼ 幽霊系VUberとのコラボ(担当:さっちゃん)
ゆうこは、画面に映るたびに“モザイク越しの霊視”になる幽霊系VUber。
映画とのタイアップ配信では、“最恐の泣きパイチャレンジ”を実施。パイを顔面にぶつけられた瞬間に泣けるかを試すも、さっちゃんの鉄拳制裁パイでスタジオがガチ浄霊。
→ 再生数:3,400万回、#泣きパイチャレンジ トレンド1位(地獄圏)
▼ 首なしインフルエンサー《首藤エリカ》とのインスタ企画(担当:ゾンビ秘書ルミラ・カデヴァ)
美脚と恐怖の首無しコーデが人気の首藤エリカ。
『パイがパニック』とのコラボでは、“首なしでも感情は伝わる⁉”をテーマにメフィスト夫人との「怒り顔メイク」対決を敢行。
→ フォロワー20万人増、パイ型コンシーラーが魔界コスメでヒット商品に。
▼ 映画評論系UBER《カルト草食男子》との対談(担当:ガブ郎)
「B級映画の美学」を語らせたら右に出る者はいない草食系レビュー系YouTuber・カルト草食男子。
ガブ郎と真面目な対談動画を上げるも、途中でなぜかゾンビ犬が画面に乱入し草食男子が半泣きに。
→ コメント数2.5万超、「ガブ郎、想像以上に知的」の声多数。映画への関心が急上昇。
さらに魔界TikTikでは
「爆発の瞬間に踊ってみた」シリーズが異常バズり!
怨霊スタントチームによる“飛び散るパイダンス”は、地獄の体育祭で公式使用決定。
→ 総再生数:1億400万回突破
→ #爆パイダンス #怨霊メイク #死後トレンドが常時ランクイン。
映画『パイがパニック』はまだ完成していないにもかかわらず、
「内容はどうでもいいから観に行く」
という逆張り層が急増。炎上が宣伝に昇華する、まさに「地獄式バズ・マーケティング」が大成功を収めたのだった。
コメント欄は爆笑の嵐。
「顔よりセリフが冷えてるの好き」
「リアルゾンビで笑ってしまった俺が悪い」
その後、ガブ郎は首なしインフルエンサー《#トリ首マコ》とダンスチャレンジ。マコが踊りながら首を投げ、ガブ郎がそれをキャッチして帽子代わりに乗せるシュールな構図が話題を呼び、再生数は1日で8000万回超。
さっちゃんも負けていなかった。
映画評論系Uber《映画マガ魔ン》に突撃生配信。彼のボロクソレビューを途中でハックして、
「……逆に観たくなったでしょう?それが“地獄的バズ”よ!」
とウィンク。なぜかグッズ化され、売り上げ1,000万円突破。
SNS地獄ランキング
魔界TikTik:1位 #パニックパイチャレンジ(再生1.3億回)
悪魔のインスタ:2位「#首が飛ぶほど面白い」
冥界X(旧ツイ冥):トレンド入り「脚本:誰が書いた問題」
さっちゃんは、配信機材を背負ったまま、燃えるビルの屋上で仁王立ちしていた。
「よし、あとは……お客様が映画館に来るだけね」
背後ではガブ郎が、首のついたり外れたりするマネキンにダンスの指導中。
ルミラは静かに、スマホの画面を見つめている。そこには、次の動画のネタ案が表示されていた。
『公開直前、生き霊200体に囲まれて試写会』
「次は、プレミアム公開で地獄すらバズらせるわよ……!」
大ヒットの予感で、さっちゃんの笑みが深まった。




