第7話 魔界エンタメ進出!?超B級映画制作へ
魔界の地獄経済崩壊から数日。
「ダメだダメだダメだぁ!! 通帳が、燃えてる!? 燃えるのか!? 通帳って燃えるのかァァァ!!」
天を仰いで絶叫するアイゼンハワードの背後で、赤黒い雨が降っていた。株式の価値はほぼゼロ、会社の資産は地獄の労働監獄に押さえられ、ゾルゲ・ドルゲン総裁の笑い声が脳内エコー状態。
そんな地獄絵図の会議室で、ゾンビ秘書のルミラ・カデヴァが冷静にスクリーンを差し出す。
「こちら、“パイがパニック”の脚本です。2000年封印指定、読んだ者が三日三晩笑い死にしかけたという、あの伝説の超駄作。」
小刻みに震えながらも、アイゼンハワードは立ち上がった。
「よし……! これだ! 起死回生の手は、“映画”しかないッ!」
突然の方向転換にガブ郎がツノを傾ける。
「映画って……また借金増やすだけッスよ? だってこれ“超B級”どころか“マイナスZ級”ッスよ!? 主人公、パイが喋るだけじゃないスか!」
「だが、それがいい!」
自信満々に拳を握りしめるアイゼンハワード。どこからともなくプロデューサー用サングラスをかけ始めた。
魔界B級の映画プロジェクト『パイがパニック』発足!
「現場、入りまーすッ!」
第一撮影日、魔界スタジオ跡地。爆発の音が絶え間なく響き、クレーンカメラが火に包まれる。監督のグールは片目を失ったまま演出席に鎮座。
「おい、俳優の頭が取れたぞー! ……あ、それ仕様? よかったー!」
エキストラの怨霊たちは、セリフがないのに勝手にアドリブで泣き叫び、現場は文字通りの“地獄”。
そこに、静かにメイク室から登場したのは……
「……今日の役は、“パイに喰われる女”。本当に喰われるのかしら?」
メフィスト夫人だった。赤いドレスに生きた蛇を巻きつけ、カメラ前で優雅にポーズ。
「一発オーケーでいくわよ。あたし、やり直し嫌いだから。」
クランクイン初日:地獄のはじまり
「……うわあああああ! パイが!! 本当に追ってくるううう!!」
パイ役のCGエフェクトが暴走、亡霊俳優がパイに飲まれてゆく。
「うそでしょ!? なんでパイが爆発するのよ!!?」
さっちゃんがメガホンを握りしめ、叫びながら撮影監督の亡者にツッコむ。
その横で、アイゼンハワードは汗だくで叫んでいた。
「撮れ! 撮れ! 撮ってしまえ! これが“リアリズム”だァァァ!!」
「違うよ!? それ“事故”だよッ!! 演出でもなんでもないよッ!!」
撮影が進むほどに現場は混沌を極め、編集担当のデス・エディターが頭を抱えて叫ぶ。
「カット数だけで地獄の契約書一冊分ある!! 尺が7時間超えてるぞ!! これドキュメンタリーかよ!!」
完成試写会(出席者:亡者7名)
“バカすぎて、逆に笑える”
“精神が削れる”
“なんで最後、全部夢オチなんだよ!!”
そしてラストシーン。
パイの山に埋もれながら、アイゼンハワードが自ら演じた役がこう叫ぶ。
「……これは、借金ではない。投資だッ!!」
会場、謎のスタンディングオベーション。
さっちゃん、ため息をつく
「あのさ……なんでエンドロールに“魂の提供:地獄年金組合”ってあるの?」
「スポンサーがついたんだ! すごくないか!?」
「……終わってんな、この会社……」
ゾンビ秘書ルミラ・カデヴァがぽそっとつぶやいた。
「“続編”の脚本……もう届いてますよ。“パイがパニック2:パイの復讐”」
「クソ映画は続くんかい!!」
さっちゃんの声が魔界全体にこだました。




