第5話 会社崩壊とゾンビM&A さっちゃんの錬金術
ゾンビ投資証券信託会社にて
「……あら、ちょっと、皆さん? 朝礼ですよ〜?」
午前9時、証券のオフィスに、パンプキンティーの香りが漂う。だが返事はない。返事どころか、人の気配がない。ゾンビ秘書・さっちゃん(脳みそはやや熟成気味)が首を傾げながら社内を歩くと……
「う〜〜ん……ブレイクイーヴン……」
「ROE……ROE……エーローエーロー……」
「ぐおお……利回り高杉ィ……!」
社員全員が完全ゾンビ化していた。顔は青白く、目は虚ろ。みんながエクセルのマクロで“脳みそ”をシュレッダーしてしまったらしい。
「うわ、なにこれ!? 終わったじゃん! わたしの部下、全員あたまパーだよ!?!?」
さっちゃんは焦る。なぜなら来週、地獄金融庁の監査が入るのだ。数字だけは合っていても、社員が全員ゾンビでは「労務的にアウト」である。
暴走するゾンビ秘書
「ええい! もうこうなったら……!」
さっちゃんは社内のクレーム処理AIを魔改造し、ゾンビ社員を強制労働させる「ゾンビ会計RPAシステム」を開発。これがとんでもない精度を発揮し、
死んでもミスらない会計処理が実現。
だが
「おい! さっちゃん! 社員の首、取れてんぞ!!」
「大丈夫! 経理は手だけ動けばいける!」
阿鼻叫喚の中、上司のアルが現れる。
アル、会社売却を決意
「さっちゃん、これはもう無理だ。会社ごと売るぞ」
「へっ……売るって、どこに?」
「地獄界のM&A仲介会社、《魔界マッキンゼー》だ」
そして開かれた、地獄業界初のゾンビ企業向けM&A会議。
さっちゃんが取り出したのは
「悪魔の株式証券です! 株式1口につき、チョコ1個無料!」
これに魔界企業の投資家たちがざわめく。
「チョコが無料!? しかも脳みそ熟成済み!?」
「この秘書……やり手だな……!」
彼女はこのチョコで株を吊り上げ、ゾンビ企業の株価を地獄最高値まで膨張させた。
さながら、魔界式のアベノミクス。
いや、もはや「さっちゃんノミクス」である。
そして
「売却完了です! 買収額は……3000万金貨!」
「おい……マジかよ」
会社がゾンビ化して破綻しかけたところから、逆に一夜で1200億の利益。
これぞ“死を超越した錬金術”。
M&A会場の裏で、ゾンビ社員たちは何もわからず天井を見つめていた。
「う〜〜ん……デューデリジェンス……」
「ん〜〜〜財務諸表……うまそ……」
さっちゃんは鼻歌交じりに言った。
「ま、いっか♪ 会社ひとつくらい売れても、わたしが本体だし♡」
その背後、アルの顔は引きつっていた。
「(さっちゃん……お前、マジで何者なんだ……)」
しかし世の中チョコのように、そんなに甘くはなかった。




