プロローグ 471歳の誕生日
「……ふーん、471か」
アル=アイゼンハワードは、静かに紅茶をすすった。
血のように赤い冥界式ダージリン。高級品だ。だが、彼の表情はまるでカビた食パン。
蝋燭271本を盛ったケーキが燃え尽き、残り200本が小型火山のようにボーボー燃えているのを横目に、アルはぼそりと呟く。
「470も471も、そう変わらんだろう」
その言葉に、部屋の隅でプレゼントの山を積み上げていた幸子とさっちゃん(ベビーサタン)がピクッと反応した。
「はいはい、また出た冷血コメント」
「アル様~!もっと盛り上がってくださいよ!471って語呂も良くないですか!?“よーなーいー!”って!」
「何が“よーなーいー”だ……語呂が悪すぎる」
「ちぇ~……でも、でも!」
さっちゃんは魔界エナジードリンクを一気飲みしてから、パッと両手を広げた。
「思い出してくださいよアル様!あの年のことを!1年で100億金貨稼いだ、あの最高の一年を!!」
アルはティーカップを置いた。
「……あれか。地獄の年度末決算フェスか?」
「ちがいますって!もう!
さっちゃんとアル様で会社作って、いろんな経営に手を出して、気づいたら魔界アカデミー賞まで獲っちゃった、あの神のような年ですよ!」
「なにそれ、さっちゃん。面白そうな話ね」
幸子が目を細めて微笑んだ。
「でしょ!?私は表の経営でお金集めて、アル様は裏の交渉で闇金潰して……もう最強コンビ!あの年だけで私たち、13ケタ稼いだんですから!」
「……あの頃の俺はまだ若かった。たしか271歳だったな」
アルが小さく目を閉じる。
「え、それで“若い”の!?」
「それ魔界基準!」
さっちゃんが爆笑し、幸子は懐かしげに遠くを見る。
「そして、物語は始まったのよ。
大不況の冥界で、たった二人の無名チームが、伝説になるまでの一年が」
そうして、アルは少しだけ笑った。
ほんの一瞬、若かりし日の狂騒と熱気が、彼の目の奥に灯った。
「まったく……あの頃は、うるさい奴らばかりだった」
「でも面白かったでしょ?」
「……まあな」
これは、死者が働き、悪魔が投資し、サタンが起業する世界で。
たった一年で100億金貨をかき集め、地獄と天界の経済を揺るがせた、
とある無茶で笑えて、ちょっと泣ける魔界ベンチャー物語である。
過去編 はじまり はじまり~




