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【ランキング12位達成】 累計52万6千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』

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第8話 仮面の晩餐会

《虚飾の宴》、そこは仮面の下に“真実”が潜む地獄。


第三階層、《冥府層》の中でも異質とされる領域

その名は、《虚飾の宴》。

ここでは、生前の肩書・記憶・過去すべてが剥奪され、

代わりに与えられるのは一枚の“仮面”と、虚構の名だけ。


「この場では、真実を語る者こそが、最も滑稽だ」


そう告げられて、アル・アイゼンハワードは仮面を被った。

漆黒の燕尾服に、黒曜石を思わせる無表情の仮面。

コードネームは《コマンダー》。

彼は、静かに晩餐会の会場へと足を踏み入れた。


仮面たちの宴

煌びやかなシャンデリア、

金色のテーブルクロス、

絶えず奏でられるチェンバロの旋律。


だがその裏で交わされるのは、毒と嘘の饗宴。

賓客たちは皆、名も顔も語らず、

虚構の会話と虚飾の笑みだけで、己の“格”を競っていた。


アルの標的は、上座に座る“仮面の女王”。

深紅のドレスに、緋色の薔薇の仮面。

一言も喋らず、それでも場の空気を支配する圧倒的な存在感。


挿絵(By みてみん)


「《コマンダー》殿、女王陛下が……チェスをお望みのようですわ」


取り巻きのひとりが告げた。

案内されたのは、白と黒の盤。

駒は、血を吸ったように鈍く輝く。


チェスではなく、諜報戦の場。


駒は語り、仮面が笑う

一手、また一手。

静かに盤面が進むたび、女王の視線がアルを刺す。

だが、それ以上に奇妙だったのは

その“打ち筋”が、ヘレナ・クライシスと酷似していたことだ。


(この駒の運び……読んだ覚えがある……まさか――)


女王は喋らない。

だが、駒に“情報”を込めている。


キングの動きで「監視」。

ビショップの回り道で「脱出経路」。

そしてナイトの跳躍で、「記憶が戻りつつある」ことを示唆する。


アルの背筋に、冷たい汗が流れた。


(まさか……この女、ヘレナの……)


“仮面の女王”は、駒を一つ進めた。

それは、父が娘に与えるチェックメイトの一手。


アルは動けなかった。

そこに込められた暗号、それは


「お父様」


瞬間、女王の仮面の奥で、瞳が揺れた気がした。


彼女が誰なのかは分からない。

だが確かに、アルの中の何かが“震えた”。


終わらない舞踏

突如、館内に非常ベル。

反乱分子が襲撃してきたと騒ぐ声。

だが、女王は一歩も動かない。


「……あなたの答え、聞かせて」


はじめて、女王が言葉を紡いだ。


「私は……“あの人の娘”かもしれない。でも、記憶がないの。

それでも、私を止めに来たなら殺しに来たのなら、それもいい」


アルは、言葉を失っていた。

血の繋がりなどなくてもいい。

だが

この冷たい戦場に、確かに“あたたかい声”があった。


彼は一歩前に出た。


「名を……教えてくれ」


女王はわずかに首を振った。


「ここでは、名前は意味を持たないのよ。

……父上、また次の晩餐で」


そう言って、女王は仮面のまま、闇に溶けるように姿を消した。


アルは膝をついた。

仮面の下で、微かな溜息を吐く。


彼の手には、女王が最後に動かしたチェスの駒

“クイーン”が残されていた。


その裏には、小さく刻まれていた文字。


「H.C.」


Helena Crisis

それは、かつて愛した女の名。

そして、失われた未来の始まりだった。


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