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【ランキング12位達成】 累計53万9千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』

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第6話 黒い告解室

冥府層・第二階層 《虚構の都ルメナリア》。


瓦礫と廃墟で構成された都市の空は、永遠に落ちない黄昏に包まれていた。空中には祈りにも似た呻き声が、都市そのものから漏れているように響いていた。


アイゼンハワードが黒きワイバーンの姿を解いたアルは、煤けた教会の正面に立っていた。


「……ここに逃げ込んだか、カナン」


腐敗した聖堂の扉が軋む音とともに開き、空気が変わる。聖なるはずの空間に充満するのは、堕落と狂気、そして“信仰”の残滓だった。


その奥に佇むのは、《ヴェール》が仕掛けた精神拷問エリア

《神父たちの黙示録》。


“信仰と裏切り”が交錯するこの階層では、訪れた者の記憶が血と幻でえぐられ、告解を強要される。


一歩、足を踏み入れると――


「よう、アル隊長……久しいな」


煙のように現れたのは、かつての部下・リュカ。若くして命を落とした冷静なスナイパーだ。


「……リュカ……?」


その後ろから、次々と現れる顔――


陽気な偵察兵キール。寡黙な魔導士フィオナ。戦術支援オペレーターの少年カズ。


全員、任務中に命を落とした者たち。


「お前が……命じたんだろ?」


「撤退指示、間違ってたんだよな?」


「“正義のため”……それで、俺たちは死んだの?」


亡霊たちの声が、アルの耳を抉るように響く。


「黙れ……俺は……!」


呻くように膝をついたアルの頭上に、ステンドグラス越しの光が降り注ぐ。それは神の祝福ではなく、懺悔を促す冷たい照明だった。


《この扉を開くには、罪を認めよ》


教会の奥、巨大な黒い扉の上に刻まれた文字が輝く。


「俺が正義だと思っていたものは……」


声が震えた。かつて、世界のためと信じて選んできた判断。見捨てた命。命じた犠牲。


それらが、いま一つ一つ、血のように脳裏へ滴る。


「……他人にとっては、“冷酷な命令”でしかなかった……」


扉が、きぃ、と軋みながらわずかに開く。


亡霊たちは、ふっと微笑を浮かべると霧のように消えた。


だが、アルの心に残ったのは、静かに焼けるような痛みだった。


「ありがとう、アル隊長。これで俺たち、やっと前に進めるよ」


リュカの言葉だけが、最後まで響いていた。


アルは拳を握りしめる。


「俺は……過ちを認めてなお、前へ進む。どれだけ傷を抱えても、誰かを救うために……!」


教会の奥に、逃げたはずのカナンの気配が再び強まる。


逃走ではない。


待ち受けているのだ。あの女は、裏切りを貫き、何かを終わらせるために。


アルは、開かれた告解の扉を越えた。

《虚構の都ルメナリア》の核心へ、踏み込んでいく。



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