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【ランキング12位達成】 累計52万2千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』

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【最終話】 正気と狂気のはざまで

世界は、再び“意志で歩める場所”となった。


アカシックコードの束縛が解かれ、ヴェイラスの残滓は虚無へと還る。

斬罪の魔剣ギロティーナが裂いたその一閃は、狂気の神の意志すらも断ち切った。


そして、静寂が訪れた。


黙示の尖塔アポクリファ・スパイアの塔跡に、薄明かりが差し込む。

赤く染まった空が、ようやく夜明けを迎えようとしていた。


「……終わったの?」


リーディアが、震える声でつぶやいた。


「いや、まだ始まったばかりだよ」


そう答えたのは、佑奈だった。血と涙に濡れたその顔には、確かな微笑みが宿る。


アイゼンハワードは、倒れたヴェイラスの残骸を見下ろしながら、剣を地に突き立てる。


「暁の密約は……履行された。精神兵器ミメシス・ゼロは、再封印に成功した。これで、二度と世界が狂うこともない」


リーディアが、ふっと笑う。


「じゃあ、あたしは戻るよ。まだ探さなきゃいけない。あたし自身の“正義”ってやつをね」


佑奈も頷く。「私も、帰る場所がある。……少しだけ、立ち止まっていたくないから」


アイゼンハワードは二人を見渡し、力強く言う。


「……俺は、世界を歩く。罪と正義の間をな。……また、どこかで」


三人は、それぞれの道へと歩き出す。

遠ざかる背中に、風が吹く。


誰かが、手を振った。誰かが、それに応えた。


それだけのことなのに、胸が熱くなるのはなぜだろう。


世界にはまだ、答えきれない“問い”が残されている。

だが、それを抱えたままでも、人は歩ける。

意志のままに。



精神兵器が封印され、戦火が鎮まった世界。


崩壊しかけた「ことわり」の地平線の上に、静かな朝日が昇り始めていた。


霊媒師ユナのその後「声なきものと、共に」

ユナは戦いの後、祖母の形見でもあった霊庵へと戻った。

人々が失った“魂の声”を取り戻すため、静かに祈りを捧げながら、小さな依頼を受ける日々を過ごしていた。


しかし彼女はもう、ただの霊媒師ではない。


彼女の中には、かつて精神兵器ミメシス・ゼロが記録していた無数の“魂の軌跡”が共鳴していた。彼女の語る言葉は、失われた者の「記憶」を照らし、世界の深層へと届く“真実の祈り”と呼ばれるようになっていった。


その姿を、人々は尊敬と畏怖を込めてこう呼んだ。


“夢を継ぐ巫女ミコ”。


彼女はいつかまた「誰かのために、語り継ぐ」と静かに誓いながら、今日も一人、ろうそくに火を灯す。


ゼロの器・リディアのその後「風はまだ、私の中にいる」

リディアは過去の戦いの記憶をほとんど失っていた。

だがその胸の奥に、ひとすじの“風”がずっと吹き続けているのを感じていた。


彼女は辺境の町で、風車の修理士として穏やかな日々を送りながら、時折、空に手をかざす。


「……この風は、私じゃない。だけど、私でもあるの」


過去の記憶に怯えることも、抗うこともやめた。

彼女は、自分の中に眠る《ゼロの器》の欠片とともに、ただ“今”を生きている。


ある日、リディアは少女に風車の回し方を教えながら、ふと空を見上げた。


「ねえ、お姉ちゃん。この風、なんだか泣いてるみたいだよ」


「そうかもね。でも……泣いても、また吹いてくれる。それが、風だよ」


彼女は微笑んだ。


その笑顔には、かつて「ゼロの器」と呼ばれた面影は、もうなかった。


それでも、風は知っている。

彼女が今も、“世界を変えた風”の中心にいたことを。




『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ9ー暁の密約』


ー完ー

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