第11話 黙示の神殿 ―聖滅のトリニティ
黒き虚空の中心、神敵が浮かぶ。
その背に掲げた「金の日輪」からは、万象を塗り替える“アカシックの光”が放たれ、現実さえも書き換えようとしていた。
「この世界に“正しさ”など存在しない……。あるのは、選ばれた神の意思のみだ」
全能の意志を掲げ、ヴェイラスが天より光を降ろす。
天頂に煌めく金の日輪が、音もなく震えた。
「……さあ、全ての記憶を“真っ白に書き換え”よう」
ヴェイラスの声は静かだった。しかしその声が放つ波動は、空間そのものをゆがめる。日輪から漏れた光が、文字のような形をとって無数に空中を流れ出すそれは、世界の“意味”を構成する記憶改変の光アカシック・コードそのもの。
次の瞬間、その光はアイゼンハワードとリディアとユナを包み込んだ。
だが人は、選び、抗い、手を取り合う。
「リディア!ユナ!行くぞ!」
アイゼンハワードが叫ぶ。魔剣が深紅の煌めきを放ち、信念と真実の象徴として握られる。
ユナが前へ出る。背から広がる“白炎の翼”が、神敵の聖なる光すら焼き払う。
「アイゼン、わたしの炎で道を拓くよ!世界に“あたしたちの意志”を刻むんだ!」
《煌陽焔陣:レグルス・インフェルノ》
ユナの放つ白き大炎は、ヴェイラスの金の光を呑み込み、世界を“選べる場所”へと戻していく。
「風よ……応えて」
リディアが風精霊と交信し、両手を掲げる。
《螺旋神風:スパイラル・ゲイル・カンタービレ》
風が唸り、聖域の空間を貫く。それは敵の視界・聴覚・予測すら攪乱し、ユナの焔と共に“光の改竄”をかき消す風の楽章。
そして、アイゼンハワード。
「偽りを斬り裂く、それが俺の剣だ」
魔剣が光を裂く。
“改変された信念”を、その一閃で打ち破る。
《真実裂剣:アトンメント・セイバー》
ヴェイラスの金の日輪を貫いた。
刹那、神敵の眼に「初めての恐れ」が宿る。
「なぜ……人間が、“神”を拒絶する……?」
「神じゃねえ、人が今を選ぶんだよ。未来もな」
三つの意志が一つとなる。
《聖滅連撃:トリニティ・オーバードライブ》
ユナの焔が空を裂く。
リディアの風が光を抉る。
アイゼンハワードの剣が神敵を穿つ。
─閃光。
世界が塗り替えられた瞬間、
金の日輪が砕け散った。
ヴェイラスはゆっくりと崩れ落ち、光の粒となって虚空に還る。
沈黙のあと、蒼穹に陽が差す。
ユナが微笑んだ。
「ねえ……アイゼン、次は“何を選ぶ”?」
アイゼンハワードは剣を鞘に収め、二人を見渡す。
「俺たちの未来だ。……三人でな」
リーディアの風が、優しく三人を包み込んだ。
終幕。




