第7話 カルト総本山への突入(カチコミ)
それは、世界の地図にも載らぬ聖域。
静寂の霧に包まれた山岳地帯の奥深く。誰も知らぬはずのその地に、異様な建造物はそびえ立っていた。
《黙示の尖塔》。
サイレントカルトの総本山にして、かつて「天と地の接点」と信じられた遺構を基に築かれた、禁忌の信仰の中心である。
巨大な黒曜石の尖塔は、まるで天を貫かんとするかのようにそびえ、空に揺らめく薄紫の霊気を絡ませている。
石造りの外壁には、見たこともない古代語と目のような印が幾重にも刻まれていた。その全てが、訪れる者の心を沈め、恐怖と崇拝の狭間へと引きずり込んでゆく。
塔の周囲には、狂信に染まった信者たちが無言で祈りを捧げる異様な庭園《禁道苑》。仮面を被った監視者たちが巡回し、侵入者に容赦のない粛清を下す。
その先にある《聖灰の門》を越えた者のみが、真なる闇と接触する「内奥」へ辿りつけるという。
そして、そのさらに奥。
大僧正エゼク・ファーリオが座する《霊核の間》では、今も血の契約と魂の取引が日々繰り返されていた。
沈黙と狂信、霊と機械、そして人の欲望が渦巻く黙示の尖塔。
この地に、ついに3人の影が侵入する
アイゼンハワード。
風を操るゼロの器、リディア。
そして霊媒師ユナ。
「この塔の天辺で、すべてが終わるのよ」
ユナが言い、アイゼンが魔剣を抜いた。
リディアの瞳に、疾風が宿る。
三つの意志が交わり、黙示の扉がいま、開かれた。
夜の帳が落ちると同時に、サイレントカルトの総本山、その黒曜石のごとき聖堂の尖塔が、不気味な霊圧を空に撒き散らしていた。
アイゼンハワードは、ギロティーナを肩に担ぎ、冷ややかな目で扉を睨む。
「行くぞ。もう、後には退けん」
隣には風をまとったリディア。白銀の髪が夜風と共鳴し、彼女の両掌には風の詠唱が集まり始めていた。
「風は、全ての障壁を裂く。導いてみせるわ」
そして、その背に寄り添うのは、黒衣を纏った霊媒師・ユナ。彼女は手に数珠と死者の仮面を携え、虚空に祈りを捧げた。
「──霊よ。今ここに集いし悪を、正しき流れへ還らせん」
扉が破られると同時に、信者たちの猛攻が始まる。呪符を掲げ、異形の儀式で強化された信者たちが襲いかかる。
「風よ、輪と為れ!」
リディアが掲げた手から、刃のような旋風が発射され、前衛をまとめて吹き飛ばす。回廊の壁に叩きつけられた信者たちは呻き声すら上げられない。
その隙を縫って、ユナが死者の仮面を顔にかざす。
「幽魂よ、顕現せよ――《招霊ノ儀:黄泉還り》!」
足元から淡い光の霊たちが現れ、信者の精神を撹乱する。まるで幻覚を見ているかのように、信者たちは仲間同士で攻撃を始めた。
だが、幹部格の高僧が前に立ちはだかる。全身に結界を纏い、鎖のような呪具を放つ。
「俗世の者よ、ここより先は神罰の領域だ」
その瞬間、アイゼンハワードの目が光を宿す。
「……魔剣ギロティーナ、目覚めろ」
刃に黒い光が集まり、空気が凍るような静寂が訪れる。
「断罪アナテマ――」
冷酷な呪詠が、聖堂に轟く。
「その魂、闇で計られし者に死を。」
黒き斬撃が幹部を切り裂き、鎖も結界も問答無用に粉砕する。
「……終わりだ」
幹部が血のような黒霧に溶けて消え、信者たちの士気が崩れる。
「全員、もう一撃よ!」
リディアが風の輪で再び広範囲を掃討し、ユナが霊たちに命じて精神を縛る。アイゼンが魔剣で止めを刺していく連携。
敵はなす術もなく、崩れていった。
やがて、神殿の最奥、封印の扉が静かに音を立てて開く。
「この先に……大僧正がいる。かんじるわ。」
ユナが小さく呟いた。
リディアは風を纏い直し、アイゼンハワードはギロティーナを握り直す。
ユナが封霊の鈴、霊力を溜めた御札を握りしめた。




