第5話 記憶を取り戻す者たち
白い光が、永遠に続いていた。
リディアは意識の淵をさまよっていた。
まばゆい光と冷たい沈黙に包まれたこの空間――サイレント・カルトが造り上げた「光の監獄」は、単なる牢ではない。精神そのものを揺さぶり、分解し、再構築する“再信仰”のための祭壇だった。
彼女はそこで、奇妙な夢を見ていた。
それは記憶だった。いや、記憶の欠片。
焼けた大地、赤黒い空、響く銃声。
その中心に立つ若きアイゼンハワード。
そして自分は彼の隣にいた。
背中合わせで、死と戦っていた。
「……違う……わたしは、あなたを……」
だが、その想起は途切れ、白い光がすべてをかき消していく。
一方、バチカン地下、封印された書庫。
MI6の諜報員を経て仲間となった古文書解読者ユリウスは、一冊の禁書を手に取っていた。
《レヴナント・コード》。
存在すら抹消された魔術文明の最終遺産。
そのページに刻まれていたのは、「ゼロの器」リディアと、「黒の誓約者」アイゼンハワードの名そして、かつて交わされた“最後の任務”の記録。
「もし“ミメシス・ゼロ”が暴走すれば、器を殺し、コードを断て」
その条文が意味するのは、リディアがこの兵器の起動装置であり、暴走時には彼女を処分せねばならぬという絶対命令だった。
光の監獄にて。
リディアの意識の奥底で、アイゼンとの過去が少しずつ繋がっていく。
彼とともにいた幼少期、任務のため訓練を受けた秘密施設、そして最終任務での別れ
「わたしは、あのとき、あなたを……撃てなかった」
ぽつりと漏れたその言葉に、監獄に共鳴するコードが震えた。
光の牢獄の片隅に記録されていた、彼女自身の意識断片が起動を始める。
過去の彼女が記した、最後の「選択」の記録。
そして、記憶の扉がゆっくりと開き始めた。
「アイゼン……わたしは、あなたに……」
囁く声。崩れ始める監獄。
だがその瞬間、頭上に現れる影。
ローブを纏った者が言った。
「ゼロの器は目覚めた。今度こそ、約束は果たされる」
その声にリディアは、言い知れぬ戦慄を感じた。
記憶は一時的に戻った。だが、これは救いなのか、それとも……。
そしてその時、彼女の背に再び“ゼロの紋章”が浮かび上がる。
それは、精神兵器の最終起動を示す印だった。




