第3話 サイレント・カルトの影
沈黙の神殿にて、儀式が始まる。
闇に沈む祭壇の奥深く、古代から続く地下聖域にて、《サイレント・カルト》の司祭たちは蝋燭の火の輪を囲み、低く祈りの詠唱を繰り返していた。
「いま、我らの祈りは果たされる。目覚めよ、ミメシス・ゼロ」
祭壇中央に鎮座するのは、旧大戦時代に封印された禁断の兵器
精神転送兵器。
それは人間の意識を模倣し、他者の精神に“上書き”する技術。記憶・人格・信念すら乗っ取り、世界を“静寂”へと導くとされた。
「ターゲット、ロック」
円形モニターに、欧州各国の要人たちの顔が並ぶ。スペイン、フランス、ドイツ、イタリア、そしてローマ法王庁。いずれも現代世界秩序を保つ重要な指導者たちだ。
起動 ミメシス・ゼロ。
次の瞬間、彼らの瞳が濁り、言葉を失う。
数日後。
欧州に激震が走った。
各国の記者会見で、指導者たちが次々と、常識では考えられない発言を繰り返す。
【スペイン・大統領】
「本日をもって我が国はEUから脱退する。我々に他国との協調は不要だ。戦争こそが、人間の真理なのだ」
記者:「今の発言は……戦争とは?なぜ突然……」
大統領:「……私は、記憶がない。ただ、これは“真実”だと感じる」
【フランス・大統領】
「全移民を即時排除する。この地は我ら純血のためのものだ。外から来た者など、救う価値はない」
記者:「人道的な観点から見て、それは……」
大統領:「民は救わない。税も300%に上げろ。貧者に施しは不要だ」
【ドイツ・大統領】
「我が国はNATOの条約を破棄し、孤立の道を歩む。信頼など、幻想だ。信用する者は最初に裏切る」
周囲にいた閣僚らは青ざめ、密かに離反の動きを始めた。
【ローマ法王】
荘厳な法王庁の聖堂での説教の中で、彼は突如、こう述べた。
「神は死んだ。愛も救済も嘘であり、ただ沈黙だけが真理なのだ。だから私は祈らぬ。人々よ、黙って滅びを受け入れよ」
信者たちは騒然とし、教会は事実上の機能停止に追い込まれる。
国際メディアは連日、混乱と不安の報道を繰り返す。
「指導者たちが一斉に“記憶がない”と曖昧な返答をし、まるで人格が変わったようだ」と。
その裏で
“誰か”が、彼らの精神を書き換えている。
かつて廃棄されたはずの兵器。
封印されたはずの禁断の装置。
精神転送兵器。
それを再起動させたのは、闇の宗教組織。
彼らの目的は、ただ一つ。
「世界を沈黙に還す」ことだった。
世界中に衝撃が走った。
国の元首だけでなく、精神の象徴とも言える宗教指導者までもが、不可解な「改変」を受けている。共通していたのは、全員が「記憶が曖昧である」と繰り返していたことだった。
その裏に潜む黒い影
《サイレント・カルト》。
古代文明の信仰をもとに、記憶と意識を奪うことで世界を再編しようとする彼らは、密かに「精神の書き換え計画」を実行していた。特定の周波数、あるいは未知のナノ構造物による脳内侵蝕が疑われているが、決定的な証拠は未だ存在しない。
パリに潜伏していたアイゼンは、この異常の連鎖に一つの確信を得る。
「これは偶然ではない。奴らは世界の中枢を乗っ取ろうとしている」
地下都市で出会った記憶喪失の少女・リディアは、うっすらと涙を浮かべながら囁いた。
「私……あの声を、聞いたことがある。目を閉じたとき……頭の中で、誰かが“書き換える”って……」
闇の中で、静かに、着実に進む計画。
それは世界の“再記述”《サイレント・カルト》の真の目的を阻むため、アイゼンハワードは世界を危機を救わなければならない。




