【最終章】 虚空の夜明け
魔界に
新たな夜明けが、明けようとしていた。
燃え尽きた不夜城は、まるで幾千の亡霊が沈黙のまま空へと還ったように、静かだった。
崩れた瓦礫の中心。
アイゼンハワードは膝をつき、静かに、楊貴妃の亡骸に布をかけていた。
「……すまなかった。また君を救うとことが出来なかった……」
けれど彼女の表情は、どこか穏やかだった。
精神操作から解放され、最期に見せた“自らの意志”――それは確かに、生きた証だった。
傍らで、トランス・ジェンダーが手を合わせて祈る。
「彼女はもう、囚われてないわ……愛は、最後に届いたのよ」
ダイマオウが瓦礫に座り、血にまみれた拳を掲げて叫ぶ。
「終わったな……! アイゼン、お前の拳、まじでイカしてたぜ!」
そして、瓦礫の陰から一人の少女が姿を現す。
白銀の義手を輝かせ、ゆっくりと近づくのはアイリス・オオオヤマ。
「……遅れて、ごめんなさい。でも、もう迷わない。私は、あなたたちと一緒に行く」
四人が揃う。
かつてバラバラだった運命が、ひとつの“夜明け”を迎えるために交差した。
アイゼンハワードは、傷だらけの手で、不夜城の崩れた瓦礫をそっとどかす。
その下に、光るものがあった。
芽吹いた、一輪の白い花。
かつてこの地に存在した“王の庭園”の最後の残り火。
冷たく乾いた瓦礫の下で、ひっそりと、それでも確かに命をつなごうとしていた。
「……希望は、まだ残っている」
彼はそう呟いた。
遠く、曙光が大地を照らす。
空は朱く染まり、暗黒の虚無を切り裂くように、新しい一日が始まろうとしていた。
アイゼンハワード
ダイ・マオウ
トランス・ジェンダー
アイリス・オオオヤマ
は立ち上がる。
傍らには、信じ合える仲間たち。
彼らの戦いは、まだ続くのかもしれない。
だがこの瞬間だけは
すべての戦いに、終わりがあった。
それぞれの心に刻まれた《虚空の夜明け》。
それは、誰にも消せない“証”となった。
『アイゼンハワードのおっさんはつらいよ8 ―復讐のラストエンンペラー』
ー完ー




