第14話 不夜城の門を破れ(下)
「もっと……ふふ。いいわ。ここからが本番よ」
九尾が妖艶に微笑むと、その身体の周囲に浮かぶ九本の尾が、禍々しい黒き炎に包まれて膨張する。
「九つの尾、開放――《黒耀の契約:外法九紋》!」
ズオオオオン……ッ!
不夜城全体を覆うように、深淵から突き上がるような闇の波動が天を貫いた。空は血のように染まり、城壁に張り巡らされた魔紋が異様な輝きを放つ。九尾の力が完全に解放されたのだ。
「ぐっ……このプレッシャー……ッ!」
アイリス大山が重装甲ごと膝を突く。
「装甲が……圧で軋んでる……ッ!」
「トランスジェンダーっ、回復をッ!」
アイゼンハワードが叫ぶ。
「了解っ☆ でも回復よりも抱きしめたほうが効くって信じてる♡」
筋肉モリモリのトランスジェンダーが、力強く拳を掲げ、神々しいオーラを放つ。
「《セラフィム・ブレッシング!》」
癒しの光が広がるが、直後――
「ギィィィイ……!」
地を割るような咆哮。
《饕餮トウテツ》が真の姿をさらし、巨大な顎を開けて魔力そのものを喰らう波動を放つ。
「魔力飢餓波《黒渦の断絶》ッ!」
「ぐあああああっ!!」
トランスジェンダーの癒しの光がかき消され、仲間たちの体力がどんどん吸い取られていく。
「アイリス大山!後退を――ッ!」
「だが……私は砲撃の要……!まだ沈むわけには……っ!」
彼女のバスターキャノンが、九尾の尾の一本に命中するも、黒い靄にかき消されてしまう。
その時、ギガ・ノクターンが闇の中から再起する。
「……我、旋律にして終焉……《冥奏・アポカリプス・ラメント》……!」
音が……聞こえない。
否、音そのものが奪われた。世界が沈黙する――音波による脳の攪乱攻撃が全員を襲う。
「うあああああっ……!!」
トランスジェンダーが耳を塞ぎ、アイリスがよろける。
「皆、下がれ!」
ダイマオウが一歩、前に出た。
「ここを突破しなけりゃ、未来なんて来ねぇんだよッ!」
その拳が、闇を裂く。
「格闘奥義――《修羅無双:連嵐百破拳》!!」
轟ッ!!
目にも止まらぬ速度の拳撃が、九尾に向けて叩き込まれる。尾が弾かれ、黒い靄が裂ける!
「貴様……!」
九尾が叫び、ギガ・ノクターンと饕餮が援護に入る――
その瞬間、闇を裂く紅の閃光が走った。
「終わらせる……魔剣、今こそ断罪を」
アイゼンハワードが跳ぶ。瞳は燃え、魔剣が霊魂の悲鳴をあげるように輝く。
「必殺《アナテマ・ディアボリカ:断罪連牙突》!!」
シュバアアアッ!!
剣の一突きが、九尾の胴を貫き
次の瞬間、連なるように影のごとく幻影斬撃が九つの尾を切り裂いていく。
「な……馬鹿な……こんな……!」
九尾の身体が崩れ落ち、ギガ・ノクターンと饕餮トウテツも、断罪の光に飲まれるように倒れ伏した。
静寂が訪れる。
崩れ落ちる黒き魔力の渦
ダイマオウが拳を握りしめ、言う。
「これが……俺たちの、道だ」
不夜城の門が、音を立てて崩れ落ちる。
英雄たちは、血に塗れながらも、ついに突破口を切り開いたのだった。




