第12話 不夜城の門を破れ(上)
不夜城、その名の通り、昼も夜も闇に包まれ、千の燈が怪しく揺れる異形の城。空には常に漆黒の雲が渦巻き、雷鳴が不吉なリズムで刻まれていた。
門の前に立つのは三体の魔獣。そして、その前に並び立つ四人の英雄たち。
「この門を破る。それが、終わりの始まりだ」
アイゼンハワードの片眼が鋭く光る。
彼の背には魔剣。冥界の底より打ち上げられた闇の刃が、静かに振動していた。
「はああっ!行くぜええぇぇ!!」
ダイマオウが地を砕きながら先陣を切る。拳に魔気が渦巻き、裂け目からは赤黒い雷が走る。
「ふふふ……もう始めるの?せっかちね」
九尾の狐・ヨウコウが微笑んだ瞬間。空気が一変した。
九つの尾が広がる。尾先に浮かぶ九つの魔法陣が、天を覆う。
「《心葬・九極連環》」
ぞぶっーと、何かが心臓を直接握りつぶすような感覚が、四人に襲いかかる。
「っ……く、頭が……っ!」
アイリスの砲口が震える。脳裏に過去の記憶が洪水のように流れ込み、戦場の判断が曇っていく。
「精神操作……幻覚も混じってやがる……っ!」
アイゼンハワードが剣を振るい、地面に自身の影を刻む。影の呪印が一時的に精神干渉を遮断するが、それでもなお視界が揺れる。
「私の愛する子たち……泣いているわ。ほら、見て。あなたが捨てた過去が」
ヨウコウの囁きに、トランスジェンダーが眉を歪めた。
「違う……私は、選んだんだ。光を、そしてこの筋肉をっ!!」
トンスジェンダーが天のオーラを放ち、幻覚を払う。だが、そこへ――
バリバリバリッ!!!
空から雷の槍が降り注ぐ。ギガ・ノクターンが翼を広げ、雷雲を背負って降臨した。
「ギガ・……ストーム・ノクターン!!」
巨体から放たれる重力圧で大地が割れ、アイリス大山の装甲が軋む。
「ちっ……空中からとは、ずるいなァ……!けどな!」
アイリスが大砲を天に向け、渾身の一撃を放つ。
「《山岳砲・アイアンハートブラスター》ッ!!」
轟音とともに大気が震える。だが、ギガ・ノクターンはその翼で魔力の渦を巻き、砲弾の一部を吸収し――残った威力で地面が抉れただけ。
「なに……通らない!?」
そこへ三体目、《饕餮トウテツ》が、不気味な息を漏らして現れる。
仮面のような顔、目のない眼窩、巨大な口腔から黒紫の波が放たれた。
「《魔力飢餓波》」
ドクン
全身の魔力が吸い出されるような感覚に、四人の体が一斉に膝をつく。
魔剣ギロティーナの光も一瞬だけ鈍り、ミカエルの治癒魔法が阻害される。
「クソッ、魔力を喰らってやがる……!」
ダイマオウが地を殴って立ち上がる。
「だけどな……喰えるもんなら喰ってみろォ!!」
拳に再び炎を灯し、ヨウコウに向かって跳躍。
同時にアイゼンハワードも叫ぶ。
「ダイマオウ、アイリス、トランスジェンダー!突破口を開け!魔剣、いま冥界の門を喰らわせる!!」
アイゼンハワードの《ギロティーナ》が唸る。地を割り、空を裂き、三体の魔獣のただ中へ
運命の一撃が、放たれようとしていた!




