第11話 魔王領エリアGの不夜城の門が開かれる
視界が開けた瞬間、一行は言葉を失った。
濃紫の夜に包まれた空間。黒く焼け焦げた大地には、かつての文明の残骸が朽ち果てており、奇妙な文様が蠢くように刻まれている。空には、月ではない、血のように赤い球体が浮かび、あたり一帯を不気味な赤黒い光で照らしていた。
その中央にそびえ立っていたのが
不夜城。
妖艶で、どこか人を惹きつける美しさと、近づけば命を奪われるような圧倒的な邪気を放つ城。その外壁は濡れたように光る漆黒の鉱石でできており、触れれば魂を喰われると伝えられる“夜晶石”によって覆われていた。
塔は螺旋状に天を穿ち、先端には常に黒い雷が踊っている。城門は無数の目玉でできており、誰が来ようとも睨み返し、侵入者の心を試すように見下ろしてくる。
風は吹かないのに、空間全体が微かに震え、呻くような声が常に耳の奥を掻きむしる。まるでこの地そのものが生きており、一行の到来を喜び、同時に喰らわんと待ち構えているかのようだった。
「……ここが、“不夜城”……」
アイリス・オオオヤマが低く呟く。
ダイマオウは手にした鉄拳を握り直し、トランスジェンダーは背中の聖剣を静かに抜いた。そして、アイゼンハワードの赤いマントが音もなくはためいた。
「気をつけろ。ここは“魔王領エリアG”。やつらの本拠地だ」
その時、地鳴りが起こった。
不夜城の周囲を囲む三方の扉が同時に開き、封じられていた魔獣たちが姿を現した。
九尾の狐
血のように紅い毛並み、瞳は深い金色。その姿は艶やかで、男とも女ともつかぬ中性的な美貌を備えている。九本の尾はそれぞれ異なる属性魔法を操り、空間そのものを裂いて次元を変える。
だがその真の恐ろしさは、“精神操作”。
「私の声に、貴方の意志は耐えられるかしら?」
かつて王朝を滅ぼした伝説の妖狐。政治的混乱、権力の腐敗、国家の崩壊を象徴する災厄の化身。その妖艶な魅力と知略により、何千何万もの魂が堕ちていった。
魔王領に再臨した今、彼女の目的はただ一つ。
「すべての世界を、不夜の支配下に沈める」
百眼の巨人
全身に無数の眼球が埋め込まれた巨人。
一つの眼で未来を見通し、
一つの眼で過去を記録し、
一つの眼で嘘を暴く――
すべての眼が揃う時、その巨体は真紅に輝き、心臓を一瞬で止める“死の視線”を放つ。
「見るぞ……お前たちの死に様を、ありとあらゆる角度からな!」
饕餮
そして最後に現れたのは、破滅そのもの。
牛か羊のような巨体に、曲がった黒角。虎の牙と人の顔を持ち、人の腕を持つ巨獣。その名は《饕餮》。
古代神話において、財産も食物も、人も魂もすべてを貪る欲望の化身とされる。だがこのトウテツは、後代の伝承に従い「魔を喰らう」役割を得た。
つまり、魔力を持つ者たちにとって、彼は捕食者。
「ククク……うまそうな魔力が……ここに……いるな」
その全身から発せられる「魔力飢餓波」は、魔族や使い魔を狂わせ、呪文を封じ、さらには触れた者の魔力を根こそぎ喰らい尽くす。
まさに絶対的な“反魔性”。
迎え撃つ四人
トランスジェンダー(回復系マッチョ大天使)
極限まで鍛え上げた筋肉を誇り、癒しと破壊の二重性を体現する天使。
「女の情熱と男の力、今ここにぶつけてやるわッ!」
両手に抱えるのは《慈悲のハンマー》と《破壊のマラカス》。
アイリス・オオオヤマ(天才科学者の末裔)
冷静沈着な天才技師。バリアスーツと電磁スリングを駆使して戦場を制圧。
「解析完了。敵の弱点は、ここよ!」
背後から支援し、味方の装備をリアルタイムで強化する。
ダイマオウ(任侠と破壊の主役)
魔界の秩序を再構築する男気の塊。
「オレが守るのは、仲間と未来だけだ!」
黒煙の中を歩み出るその背に、誰もが希望を見る。
アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス(通称:アルおじ)
赤い瞳にワインレッドのマント。貴族的なファッションを好む。
最近は白髪交じりや肌のカサつきを気にして保湿クリームを常備。
「貴様らの時代は、終わらせる!」
長年の経験を活かし、一瞬の隙すら逃さぬ。
不夜城の入口を覆うのは、三体の魔獣が吐き出した災厄の嵐。
死の視線、空間断裂、精神汚染、あらゆる禁忌が四人を迎え撃つ。




