第10話 転写研究所ボス戦
「ようこそ。我が“転写ウィルス研究所”へ」
黒光りする手術台の上で、九条イサムが不敵に笑った。白衣はすでに破れ、筋肉のように隆起した機械の骨格と、ドロリとした腐肉が融合した異形の姿。それはまさに“メカゾンビ”。
「私は、進化したのだよ。死を超え、肉体を超え、神にも等しい存在へと……!」
九条の手に握られていたのは、試験管のような注射器。液体は不気味な緑色に光っている。
「見せてやろう、最終形態……“メカゾンビ・オーバーライド・モード”!」
バシュッ!!
自らの首筋に注射を突き刺すと、九条の肉体が変貌を始めた。金属の装甲と腐敗した組織が爆発的に膨張し、体長は8メートルにも達する。
背中からはロケット砲、両腕にはチェーンソーブレード。そして腹部には、まだ生きているゾンビの顔がいくつも埋め込まれていた。
「ヒィイィィ!! 気持ち悪すぎィ!」
アイリス・オオオヤマが叫びながら火炎放射器を構える。
「行くぞ! 俺たちで終わらせるんだ、あの男を!!」
アイゼンハワードが叫び、魔剣を抜く。
「俺は拳で語るだけだァ!!」
ダイマオウが鉄拳を構え、地面を蹴った。
「……九条……お前はもう、誰も癒せない……」
トランス・ジェンダーが目を伏せ、ゆっくりと宙へ舞い上がる。
砲塔からのミサイルが降り注ぐ。
「着弾ッ! ウワアアアア!!」
ダイマオウが受け止め、装甲を砕いて突進。だが、チェーンソーブレードが唸りを上げて彼の腕に傷を刻む。
「任せろ! 消毒ターイム!!」
アイリスが炎を浴びせるが、九条の装甲には焼きが足りない。
「今だ、奴の腹部にウィルス培養核がある!」
アイゼンハワードが剣を構え、ダイマオウとともに突進する!
ドゴォォォォォン!!!
しかし、九条の咆哮と共に、死霊の風が吹き荒れ、二人を吹き飛ばす。
「いかん、回復する!!」
そこで
「眠れ、俺の胸で……地獄のゆりかご・ゾンビバージョン!!」
宙を舞うトランス・ジェンダーが、九条の巨大な肉体に強制抱擁を仕掛ける。
「やめろォォォォ!! 抱きしめるなァァァ!!」
九条が絶叫。だが、その瞬間、抱擁から放たれた癒しの波動が体内のゾンビ細胞と反発を起こし、内部から分解が始まる。
「今だアイリス! ワクチン砲を!!」
「発射ッ!!」
巨大な注射型砲台から、青白い光線が発射され、メカゾンビ九条の胸を撃ち抜いた!
「バカなあああああああああああああ!!」
九条イサムは悲鳴を上げながら、自らが守っていたウィルスの培養核ごと爆発。
研究室は崩壊寸前。四人はダッシュで奥の培養室に突入し、残された最後のウィルス液に火炎を放つ。
ジュゥウウウ……
「……終わった、のか……?」
アイゼンハワードが息を切らしながら呟く。
アイゼンハワードの剣が、ダイマオウの爆炎が、トランスジェンダーの愛の抱擁が、そしてアイリス・オオオヤマの科学の力が、ついにコロコロナーウィルスの培養液を焼き尽くした。
崩れ落ちるメカゾンビと化した九条イサムの骸。その目は、最期まで狂気に染まっていた。
「終わったか……?」
ダイマオウが肩で息をしながら問う。
だがその瞬間、研究室の壁際のコンソールに駆け寄っていたアイリスが叫んだ。
「まだ……終わりじゃない。やつの計画は複数の研究所で同時進行されている可能性がある」
彼女はキーボードを叩き、コンピュータ端末の画面に別のマップを映し出した。
闇に覆われた地図の中央。真紅の警告アイコンが、禍々しく点滅する。
「ここだ……“魔王領エリアG”……そこに、次のラストエンペラーがいる“不夜城”がある!!」
不夜城。かつて一夜にして魔界千年の繁栄を築いたという伝説の魔都。
その最奥には、自らを「ラストエンペラー」と名乗る者と、その側近にして妖艶なる亡国の美女・楊貴妃の影が待ち構えていた。
「この戦い……まだ、終われねぇってことか」
アイゼンハワードが重い剣を背負い直した。




