第9話 転写研究所突入
研究所・外縁部。
爆音と共に瓦礫が吹き飛ぶ。火炎放射器を構えたアイリス・オオオヤマが一歩前に出た。
「汚物は消毒だぁあああ!!! 消え去れ!」
その声と同時に、焼き尽くすような火炎がゾンビ兵たちを包みこむ。呻き声をあげながら灰と化していく元・魔族の兵士たち。だが、彼らの中には、かつて一緒に笑い、戦った仲間たちの姿も混じっていた。
「……容赦はしない。私は科学者。敵なら焼く、それだけ」
炎の向こうで静かに呟くアイリス。その白衣の背中には、もう迷いはなかった。
研究所・中央棟前。
一足先に内部へ突入していたアイゼンハワードとダイマオウは、ゾンビ化した魔族兵と交戦中だった。
「どうやら“あの男”は本気で世界を壊す気らしいな……」
アイゼンハワードは剣を構え、目を細めた。
「壊すのは俺の役目だってのによぉ!」
ダイマオウは鉈を肩に担ぎ、笑った。
そのときだった。
重厚な扉が静かに開き、ゆっくりと一人の影が現れた。
「……久しいな、アイゼン。マオウ。眠れ、俺の胸で」
ゾンビのように膨れ上がった肉体、しかし瞳は優しさを湛えていた。
トランス・ジェンダー(種族:大天使/性別:全て)
元・回復系マッチョ天使。情に厚く、誰にでも抱擁と癒しを与えた支援型戦士だった。
「嘘だろ……トラジェン……!」
アイゼンが叫ぶ。
「今の俺は“転写ゾンビ体”だ。全ての性を、全ての苦しみを背負いし者。だが……お前たちを癒したい気持ちだけは……まだここにある」
そして、歪みながらも彼は魔法を発動した
《地獄のゆりかご ゾンビversion3》
抱擁と共に発動される強制回復魔法。だがゾンビ状態の彼は暴走し、味方も敵も強引に抱きしめようとしてくる。
「近寄るな! 抱擁で骨が軋むっ!」
「マジで死ぬ死ぬ死ぬってば!」
ダイマオウが叫び、逃げ回る。
涙をこらえながら、アイゼンは剣を握りなおした。
「トラジェン……君を“抱きしめ返す”ために、俺は進む!」
**《地獄のゆりかご・ゾンビバージョン》**を発動したトランス・ジェンダー(大天使/ゾンビ化)は、空中からマッチョな腕を広げながら降下!その肉体は腐敗しながらも神々しく、愛と死を同時に振りまく危険な存在に変貌していた。
「眠れええええッッ!!!俺のぉおおお胸でええええ!!!」
叫びとともに迫るゾンビ抱擁。
ダイマオウは鉄球を構えるも、「これは……効かん!」と身構えるしかない。アイゼンハワードも戸惑いを見せる。「奴は……かつて俺たちの仲間だった!」
そんな中、アイリス・オオオヤマはワクチン入り火炎放射器〈DAISONブレイズ改〉を構える。
「さよなら、あったかい胸……そしてバイ菌!」
アイリスが引き金を引いた瞬間、紅蓮の炎とともにワクチン霧がゾンビ・トランスを包む――だが、ワクチンは完全には効かない。
「ぬぉおおおっ!?熱い……でも……俺の愛は……止められなあああい!!」
どうやら、トランス・ジェンダーはゾンビ化してなお「回復魔法」のエネルギー核を保っており、それがワクチンの効果を部分的に無効化しているらしい。
しかし、ワクチンは確実に侵食を止めていた。
「くっ……アイゼン……俺を、止めてくれ……!」
トランス・ジェンダーの最後の叫びを聞き、アイゼンハワードが近づく。
「……ああ。お前の愛と力は、受け取った。安らかに眠れ、友よ」
抱擁の構えで迫るトランスに、アイゼンが渾身の一撃を胸元に放つ。
「眠れ、俺の腕の中で」
ボォオッ!!!
炎とともに、トランス・ジェンダーは崩れ落ち、かすかに微笑んだ。
「生きているよまだ。ケツ穴にワクチンをラブ注入!」
アイリスが注射器でワクチンを打ち込む。
トランス・ジェンダーは、元に戻った。
この戦いからアイリスは重要なデータを得る。
「ウイルスの核は……“愛”に宿ってる。感情に反応して進化するのよ。これはただの兵器じゃない、心を奪うウイルス……!」
3人は静かに前を見る。




