第8話 コロコロナー ゾンビ兵器計画
夜の魔界
空に浮かぶ紫雲の底で、死者が再び歩き始めていた。
氷結した湿地帯を進む一隊の兵士たち。
彼らの皮膚は黒く変色し、眼孔からは淡い緑色の霧が流れ出している。
それは、かつての“英雄たち”だった。
「……シモーヌ……グラディウス……!」
ダイマオウの声が震えた。
長き戦争を共に戦った仲間――今や、名前を呼んでも返事はない。
それは、九いイサムによる「魔族兵器」計画。
その核心は、《コロコロナー・ウィルス》。
魔界に封印されていた“虚無の胞子”を改良し、死体を強制稼働させる忌まわしき兵器だった。
「ダイマオウ、接触は危険です!」
アイゼンハワードが声を張る。
「これは……知性も残っていない。完全な死霊ウィルス兵だ!」
「だったらぶっ壊すだけだろうが……!」
「違う」
その場に割って入ったのは、白衣を翻す一人の女――
アイリス・オオオヤマ(ダイソン・サイクロンの子孫)
肩まで伸びた蒼い髪。手には無数の分析用掃除機型センサー。
魔界でも名を知られた清掃科学者であり、ウィルス生態学の第一人者。
「ダイマオウさん、その子たちはただ操られてるだけ。
“魂”だけでも救えるなら、私はやる価値があると思ってる」
彼女が背負うのは、全自動抗ウィルスバキューム《マキタ・カノン》。
これはただの掃除機ではない。死の霧を吸引し、解析し、逆転ワクチンを生成する魔導装置である。
作戦開始「マキタ・カノン・プロトコル」
アイリスが装置を展開すると、空間に金属音が響く。
周囲の空気が瞬時に圧縮され、死の霧が巻き取られる。
「目標:コロコロナー原種―発生源は魔界地下の『思念層』。
九条イサムはそこに、“生けるウィルス”を植えているわ!」
「イケるウィルスって、何だよ?」
「死者の思念をデータ化したプログラム。
簡単に言えば、亡き戦士たちの“憎しみ”だけを抜き取って、ゾンビのOSにしてるのよ」
「最低だな……」
ダイマオウの拳が震えた。
アイリスは叫ぶ。
「発生源の座標がわかった! 魔界第七層にある“転写研究所”よ!」
「やはり九条……!」
アイゼンハワードの拳が震える。
「奴を止めるのは……俺たちだ。どれだけ過去を踏みにじっても、未来だけは守る!」
一同は再び立ち上がる。仲間の遺志を背負い、闇の中へと歩を進める。
次なる戦場。魔界第七層、九条イサムの研究所へ。




