表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ランキング12位達成】 累計53万9千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

431/1304

第2話 魔海の底、蘇る皇帝

九条イサムは、赤い外套をはためかせながら、かつて「魔中封域」と呼ばれた結界の中央に立っていた。彼の手には、古びた羊皮紙に刻まれた《禁呪文》と、忌まわしき皇帝の骨より削り出した〈封印鍵〉。


「……ここからが、本当の戦争だ」


九条が呪文を唱えると、地鳴りとともに海が割れ、魔界の歪が地表に漏れ出す。その中心、黒曜石の棺が軋む音と共に割れ


より出でし王の名において、

我、時の檻を砕く者なり。

虚無を満たせ、永劫の闇よ。


《開門ノ刻、現界セヨ

ラスト・エンペラー》!!」


深紅に染まった魔海の底。封印の祭壇を囲む石柱には、いずれも血のような魔力がまとわりつき、時の流れを拒絶していた。


そして、その中心

裂けた石棺の中から、ラストエンペラーはゆっくりと姿を現した。


彼の名は愛新覚羅。


挿絵(By みてみん)


かつて七界を統べた最後の魔界皇帝。

その姿は、白銀の長髪と漆黒の甲冑に包まれ、紅玉のような双眸が炎のように燃えている。肌は死人のように蒼白でありながら、瞳の奥には永劫を超えてなお、王者としての威厳が宿っていた。


背に背負う二対の魔翼は、かつて天界をも墜としたという“神滅の黒羽”。

そしてその胸には、裏切りと封印によって深く刻まれた魔剣の痕跡が、未だ生々しく残っていた。


その姿は、すでに人間を超越していた。紅蓮の鎧に身を包み、竜骨で編まれた王冠をいただくその男。瞳には血のように濁った炎。


「貴様か……封を解いたのは」


「お迎えに参りました、皇帝陛下。世界を再び陛下の玉座へ」


ラストエンペラーはゆっくりと身を起こし、天を仰ぎ嘲笑する。


「フッ……愚かなるアイゼンハワードよ……我が輝ける帝国を恐れ、我をこの深淵へと封じたか。そのくせ、英雄面とはな」


怒りではない。だが、深く、ねじれた逆恨み。


「お前が恐れたのは、我が力ではない。我が真実だ。我こそが“世界のあるべき形”であった。それを否定し、お前は民の希望とやらに逃げた」


「ならば今一度、見せてやろう。正しき世界の在り方を」


その言葉と共に、魔界全域が震え、封じられていた神話魔獣たち

九尾の大蛇、剣喰いのキマイラ、百眼の巨人たちが目覚める。



一方その頃

かつて帝国の後宮で絶世の寵妃と称された、ラストエンペラーの元妃。


今は“サリィ”と名乗り、品川の不動産屋・カズヤと二重生活を続けていたその女の素顔もまた、徐々に明らかになっていく。


彼女が復讐に燃えるのは、単なる封印への恨みではない。


「私は……愛されたのではなく、ラストエンペラーに近づくために“利用された”のだ」


ラストエンペラーによって、政略の道具として与えられ、帝国の支配の象徴として“崇拝されること”を強いられた日々。


だがアイゼンハワードが皇帝を滅ぼし、民衆を解放したとき、サリィ(楊貴妃)は一瞬だけ「自由」というものを感じた。


けれども


「あなたは私を見なかった。突然去った、あの瞬間、あなたが手を差し伸べてくれていたら……私は、復讐鬼にはならなかった」


そう、彼女の復讐相手は、ラストエンペラーではない。

かつて彼女を救うはずだった男アイゼンハワード。


そして、彼の血を引くカズヤとの“偽りの婚約”は、愛でも計略でもない。

ただの試練だった。


「あの男の血が、また私を裏切るのかどうか」


歪みゆく魔界。

目覚める皇帝。

崩壊する愛と正義の定義。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ