【最終話】 二度目の生還
火山秘密基地、最深部。
警報が鳴り響く中、九条イサムはゆっくりと自爆装置のスイッチに指をかけた。
背後には、かつての部下たちが脱出していった通路。
だが、彼は一歩も動かない。
血塗れの顔で笑う。
「ガキどもが、正義だ未来だとほざきやがって……」
苦々しそうに唾を吐く。
「いいか? お前たちが救ったと思ってるこの地球は、またすぐに腐り始める。人間ってのはそういうもんだ」
そしてレバーを引いた。
「せいぜい、地獄まで見届けてみろよ。ギアチルドレン」
直後、爆炎が彼を包んだ。
崩壊する岩盤の中、キャサリンは意識の薄れるアイゼンハワードを肩に担ぎ、必死に前進する。
「もう少しよ、しっかりして!」
背後では、連鎖的に爆発が走り、天井が崩れ落ちる。
「も、もうだめかもーっ!」
ミアの叫びがこだまする中、それでも彼女たちは生き延びるために走り続けた。
……夜明け前のオキナワの浜辺。
小さなゴムボートが、波間にぽつりと浮かんでいる。
ミアとキャサリンが、無言で星空を仰いでいた。
どこか遠い場所を見ているような目で。
「……誰かを救うって、こういうことなんだね……」
ミアがぽつりと呟く。
キャサリンは、目を閉じたままうなずいた。
その時
足音が、浜辺に響いた。
振り向くと、よろよろと歩くひとりの男。
血と泥にまみれた姿。
「……死んだ? いや――ちょっとだけ、眠っていただけさ」
アイゼンハワードだった。
ミアは、驚きのあまり何も言えなかった。
キャサリンは、静かに彼を抱きしめた。
「おかえりなさい、ボス」
彼は、濡れた葉巻を口にくわえ、空を見上げる。
「『コード・オキナワ』……結局、何も救えなかったかもしれん」
波が寄せては返す音だけが、静かに残る。
「でも。少なくとも、みなが生きてる。それが……唯一の、答えかもしれんな」
数日後。
封を開けた手紙が一通、風に吹かれてページをめくる。
それは、 プロトタイプG-03《ミア》が残したものだった。
「わたしたちは兵器でも、道具でもない。
でも、“誰かの希望”になれるなら、それでいいと思ったんだ。
あの日、空を見上げたとき
星は、とても、あたたかかったよ。」
ページの最後、
手描きの太陽の下に、ぎこちない文字でこう書かれていた。
「ありがとう、アイゼンハワードへ」
アイゼンハワードは一人、浜辺を歩いていく。
波の音、風の匂い、誰もいない夜明け前の世界。
背中は重い。罪と記憶を引きずって。
それでも、彼は歩いていた。
子供たちが繋いだ命の続きを、生きるために。
夜明け。水平線の向こうに、光が差す。
希望のような、ただの朝のような
でも確かに、平和な一日が始まろうとしていた。
『アイゼンハワードのおっさんはつらいよ7 ―コード オキナワ』
ー完ー




