第6話 滅びのプロトコル
琉球列島・オキナワの火山秘密基地
かつて、米国と大エイドーの地上戦が唯一行われたこの地に、いま再び歴史の裂け目が開こうとしていた。
黒いロケットが、厚い雲を突き破るように天へと向けて構えられている。その艦腹には、巨大な核弾頭。そしてコードネームは《CODE-OKINAWA》。
「20分後……アメリカ本土に報いを。」
九条イサムが、静かにスイッチを押した。
緊急アラートが轟き、発射までのカウントダウンが始まる。
00:19:59
00:19:58
「イサムッ!!」
アイゼンハワードが駆け込む。血にまみれたまま、拳を握りしめ──叫ぶ。
「その引き金を離せ!これは報復じゃない、ただの虐殺だ!」
「……そうさ。だが、正義とは勝者の言葉でしか語られない。」
イサムは冷たく笑った。
「ならば俺が、“歴史”になってやる!」
アイゼンは咆哮と共に跳びかかる。だが次の瞬間、彼の前に黒い影が滑り出た。
「……あなたに、止められる義理はない」
銀の冷気が空を裂いた。
突如、アイゼンハワードの前に現れたのは、ギアチルドレンの3人の実験体の子供たちだった。
■ プロトタイプG-01《コレット(冷却型)》
外見:銀髪ショートカット。全身に冷却ユニットを内蔵した白い戦闘服を着用。身長は150cmほど。
性格:冷静沈着。完全に感情を遮断されており、敵味方問わず論理で判断する。
攻撃方法:凍結術式:対象の神経伝達速度を冷却することで動きを止める。
極冷斬撃:冷却された両腕がブレード状に変形し、分子レベルで切断。
零度領域《Absolute Zone》:周囲15mを絶対零度に近い空間に変える広域制圧技。
■ プロトタイプG-02《リド(怒涛型)》
外見:赤茶の髪を逆立てた短髪。筋肉質で機械的補強のある両腕。体長は160cm。
性格:制御された「怒り」を武器とするタイプ。常に激情的で獣のような言動を取るが、内面では冷静な判断を保つようにプログラムされている。
攻撃方法:衝撃連打:一秒間に百発以上の打撃を加える格闘戦特化技。
振動波:怒声と共に空間を振動させ、敵の聴覚と平衡感覚を狂わせる。
狂乱解放:制御リミッターを外し、数分間だけ無敵状態になるバーサーカーモード。
■ プロトタイプG-03《ミア(悲哀型)》
外見:黒髪ロング。真っ白なドレスのような戦闘装束を身に纏い、涙を流しているように見える仮面を着けている。身長は145cm。
性格:他者の悲しみを模倣するようプログラムされており、会話・戦闘中に哀しげな言動を繰り返す。だが実際は徹底した破壊兵器。
攻撃方法:幻影術:相手の「最も悲しかった記憶」を投影し、幻覚を見せる精神攻撃。
共鳴弓:悲しみの感情を変換したエネルギー矢を放つ魔弓。
◇ プロトタイプG-01《コレット》、出撃
その少女は、全身に冷却ユニットを搭載した白銀の戦闘服を纏い、機械的な動作で前に出た。
「排除します。任務優先。感情、遮断済み」
凍結術式発動
氷の結晶が空気中に浮かび、アイゼンの動きを瞬時に鈍らせる。筋肉の神経伝達が冷却され、膝が揺らいだ。
「チッ……!」
アイゼンは逆に動きを読ませず、氷を割るように膝をついたままコレットの懐に潜り込み、頭突きを喰らわせる。
しかし──
極冷斬撃
コレットの腕が変形し、分子を断つ刃と化す。その刃はアイゼンの肩を斬り裂き、鮮血が弾けた。
「ぐっ……!」
それでも彼は踏みとどまり、彼女の腹部に一撃を叩き込む。氷を纏う装甲が砕け、火花が散った。
だが──その隙を突いて、咆哮が轟く。
◇ プロトタイプG-02《リド》、乱入
「コォォォオラァアアア!!!」
紅蓮の怒りを身に纏った巨漢が、轟音とともに上空から着地した。
「熱くなってんじゃねぇかコレットォ!次はオレの番だッ!」
機械補強された両腕をブンと唸らせ、アイゼンに向かって猛進する。
衝撃連打──!
数秒で百発以上の重打が、装甲を穿つようにアイゼンに叩き込まれる。コンクリートが砕け、アイゼンは壁ごと吹き飛ばされた。
「っはあ……ふざけやがって……!」
地面に這いながら、立ち上がろうとするアイゼン。その背後に、白い影が音もなく降り立つ。
◇ プロトタイプG-03《ミア》、降臨
「……どうして、こんな悲しいことを……」
黒髪ロング、白いドレス、仮面から流れる“涙”。ミアは哀しげな声で囁いた。
「あなたの心にある、“いちばん悲しかったこと”……私が視せてあげる……」
幻影術──
アイゼンの目に、突如かつて失った仲間、倒れていったギアチルドレンたちの幻が浮かぶ。焼ける匂い。絶叫。裏切り。
「やめろッ……やめろォォォ!!」
胸を掻きむしりながら、アイゼンは頭を振り払う。だが、精神は蝕まれていく。
「彼は、もう戦えません」
コレットが冷静に告げた。
「感情干渉、完了。戦闘優位、維持」
イサムはロケットの発射台を見上げ、再び歩を進める。
00:14:33
その時だった。
「やめろ……それ以上進むな……!」
アイゼンの声が再び響く。
彼は、血まみれの腕を掲げ、最後の力を振り絞って走り出す。
「お前らは、ギアチルドレンじゃない……!兵器にされた子供たちだ!!」
一瞬、ミアの動きが止まる。仮面の奥で、何かが揺れた。
「……私は……」
だがその隙を突いて、アイゼンはイサムに飛びかかった!
「終わらせるんだ、イサム!!」
雄叫びと共に、アイゼンは九条イサムをロケット発射台の外へ投げ飛ばした!
ドゴォッ!!
爆発音。鉄骨が崩れ落ちる。
九条イサムは唇を切りながらも、笑っていた。
「……だが、もう遅いぞ……」
00:12:00
ロケットは起動フェーズに入っていた!




