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【ランキング12位達成】 累計53万7千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』

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第2話 コウベーの赤い影

コウベー港の夜は、霧に沈んでいた。


湾岸のコンテナ群が照明の中で不気味に浮かび、風のない空気に、どこか人工的な静けさが漂っている。


そこに、一人の男が立っていた。

アイゼンハワード。かつて世界の危機を救ったMI6の諜報員。

コートの襟を立て、無言で貨物船「アーキテクトIV号」を見上げていた。


この港には、通常の物流に混じって“何か”が運ばれている。

その“何か”が、人工衛星の連続消失事件と結びついている。

そう確信したアイゼンは、かつての協力者へと連絡を取っていた。


「……久しぶりだな、キャシー」


「老けたわね、アイゼン。だけどまだ、声は鋼みたい」


挿絵(By みてみん)


赤い髪の若い女性が、港のクレーン操作室で振り返った。

キャサリン・ケイン。元NSAの天才ハッカー。

政府機関から逃れ、いまは影の中で生きている。


彼女の端末には、「WALDERヴァルダー」という名が点滅していた。

それは国際的なサイバー傭兵組織――だが、ただのハッカー集団ではない。

宇宙技術、軍事ロジスティクス、そして何より「軌道妨害兵器」の開発に関与しているという。


「この船が神戸から打ち上げた“ロケット”軌道上の何かを壊すためのものだった。座標データもある。全部、WALDERが動かしてるわ」


「やはり、そうか」


「だけど、あんたに渡すにはリスクがある。WALDERは私をマークしてる。九条イサムも、ね」


その名を聞いた瞬間、アイゼンの目が細くなる。


九条イサム。かつての同僚。

日本情報庁(旧公安外事)出身の諜報員であり、現在はWALDER幹部。

アイゼンの最大の失敗、それは九条を“裏切らせた”ことにあった。


「やつが、まだ生きてるのか」


「彼はもう“人間”じゃない。コードネームは《シルバー・ミラー》。組織の対AI戦術指揮官よ」


「……悪趣味な名前だ」


その時、警報が鳴った。

すでにWALDER側は、アイゼンとキャサリンの接触を察知していた。


「時間がない、船に潜入するぞ」


船体の側面に取り付けられた古びたハッチをこじ開け、内部へ。だが、そこに待っていたのは予想以上の罠だった。


次の瞬間、アイゼンの首筋に何かが突き刺さる。

床が沈み、無数の赤外線が交差する空間に転落。スタンガスが噴き出し、視界が白く染まった。


「くっ!」


目覚めた時、アイゼンは冷たい床に横たわっていた。両手は拘束具に固定され、周囲には機械的な音と、無機質な照明だけがあった。


「よく来たな、MI6の亡霊」


スピーカーから聞こえたのは、九条イサムの声だった。


「“コード・オキナワ”……貴様には理解できまい。我らが目指す“調和”を」


「調和だと? それが軌道上の殺戮か」


そのとき、ドアが破られた。


「おまたせ!」


キャサリンだった。彼女は自作のEMPフラッシュを炸裂させ、ドローンを無力化しながら飛び込んでくる。


「走って!」


だが、廊下で警備ドローンの機銃が作動する。

キャサリンはアイゼンを背に押し出し、自らはその銃弾に倒れた。


「……バカね、もっと……ちゃんと逃げなさいよ……」


赤い髪が血に濡れ、彼女の身体が冷たくなっていく。

アイゼンはその手を握りしめ、唇を噛んだ。


「借りは、必ず返す。キャサリン」


彼は荷電パルスで扉を焼き切り、船倉に残されたデータサーバーを確保すると、燃え落ちる天鋼丸を背に脱出した。


港の夜は赤く燃えていた。

その影に、九条イサムの黒いシルエットが浮かび上がっていた。


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