第15話 世界の最後の選択 (上)
――The Final Choice of the World――
漆黒の虚無が、時の門からあふれ出していた。空間は軋み、天と地の境が溶け、万象の理が崩壊を始めている。
地鳴りが響き渡る中、崩れゆく研究所の最奥にて、狂気の魔学者、Dr.ノアが高らかに宣言した。
「お前たちに残された世界崩壊まで時間はあと10分だ」
虚無の瘴気が渦巻く中、ノアの白衣は破れ、背筋が不気味にうねる。背後にあった巨大培養槽が割れ、異形の肉塊が溶けるように彼の身体へと融合していく。
「これが私の真なる姿……人智を超えた究極の叡智!」
「実験体999号《ノア=オーバーマインド》、覚醒!」
ドゴォンッ!!
ノアの肉体は破裂し、再構成される。巨大な脳髄が背中から飛び出し、全身を制御。両腕は触手となり、脚は鋼鉄の多関節へと変じた。まるで神を模倣した異形の神性――生ける知性の怪物が、そこに立ちはだかる。
「世界は崩壊する! 世界は終わりだ!!」
だがその前に立ちはだかる男がいた。
アイゼンハワード。
かつての騎士、かつての英雄。
今や彼は、己の人間性をも投げ捨てる覚悟を決めていた。
「……時の門を閉じねば、すべては無に還る……」
「レイラ……すまない。ジェームズ……ありがとう」
そして、天を仰ぎ叫ぶ。
「目覚めよ、古き獣よ……闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。」
「王の血よ、魔獣の骨よ! 真の姿へと具現せよ……!」
「《魔獣ライカントロス》ッ!!」
ズギャァァァァン!!!
黒き雷が彼を裂いた。
その雷鳴はアイゼンハワードの肉体を直撃し、神々すら拒絶する咆哮をもって変化が始まる。
優雅な衣は焼け焦げ、皮膚が裂け、骨が変形する。肉体が異形の力に順応し、毛皮が隆起し、四肢が猛獣の如く強化される。
空間が悲鳴をあげた。
黒き魔獣――神殺しの名を冠する伝説の存在。
全長3メートルを超える咆哮獣。
雷を宿す牙、鋼鉄すら粉砕する闇の爪。
その存在自体が“天の秩序”を破壊する異端の具現。
「……これが……俺の、最後の戦いだ」
魔獣の瞳が開いた瞬間、Dr.ノアが嗤った。
「ならば、これをくれてやろう」
「《ベヒモス・コード 第七式──知恵と戦いの神 オーディン顕現》!!!」
光と闇が爆ぜた。
Dr.ノアが変身したのは、機械仕掛けの神の巨像。巨大な槍を携え、千の目で未来を計算し、千の腕で死をもたらす。
ノア=オーバーマインドと融合し、時の門から吸い上げた無限の時空エネルギーが彼に神性を与えていた。
「時の扉はもうじき開く! 貴様らに止められるはずがない!」
雷鳴と理論がぶつかり合い、空間が何重にもひび割れていく。
Dr.ノアの変身した実験体999号 vsアイゼンハワードが魔獣化したオーディン
世界の命運をかけた、最後の闘いが今、始まる!




