第12話 光と闇の最終決戦 (上)
ここは世界の始まりにして、終わりを定める場所。
“神核領域”。
天と地、光と闇、すべての理が交差する聖絶の空間。
無限に広がる星霧の中心。
そこに立つのは堕天使アザリエル。
そして、その向かいに羽ばたくのは、聖翼の乙女・レイラ=アリエル。
「……やはり、ここで決着をつける運命なのね、アザリエル」
「フッ……運命? くだらん。俺は定めを殺す者だ。お前のその甘き光もろともなッ!!」
ゴウッ!!
黒い翼が唸り、天地が震える。
アザリエルの背に浮かんだのは、刃と禍々しき意志を宿す六本の光の剣
「喰らえ……《堕天裂光》!!」
刹那、六つの剣が雷光のように放たれる。
その斬撃は、時を裂き、空間を断ち、理すら否定する死の刃。
レイラはそれを見据え、光の衣を翻す。
「《聖環結界せいかんけっかい》、展開!」
純白の光環が空中に十重に展開し、襲い来る堕天の刃をひとつ、またひとつと受け止めていく。
だが六つ目の剣が突き抜け、彼女の肩をかすめた。
「ぐッ……!」
鮮血が舞う。だが、それは序章にすぎなかった。
「見せてやろう……俺の“真なる誓い”をなッ!」
「《血涙の契約》……!」
空中に浮かぶ漆黒の魔法陣から、幾万の呪詛が糸のように飛び出す。
それらはすべてレイラの身体へと絡みつき、魂の奥底に侵蝕する。
「この呪いは貴様の記憶を、想いを、すべてを“苦しみ”に変える……!」
レイラの瞳に、赤黒い光が灯った
「……うぅ……いや……この……光が……消えるものかッ!!」
地面がひび割れ、光と闇の境界から何かが這い出す。
「我が影より目覚めよ……《黒き審神者》、出でよ!」
影が揺れ、禍々しき黒の使徒が現れる。
だがそれは敵ではない。レイラ自身の“影の守護者”。
黒き審神者はレイラの影と一体化し、呪詛の糸を断ち切っていく。
「黒き審神者を……無効化……!? バカな……!」
「光だけでは救えない……闇を知ったからこそ、私は立てる……!」
レイラの両手に、光と影、二つの力が集束する。
「アザリエル……あなたを救いたい。そのために、私は」
「やめろォォォ!!!」
怒りに満ちた咆哮とともに、アザリエルは空間そのものを引き裂く。
「……アザリエル、なぜ堕ちたの?」
レイラの声は静かだった。だが、その瞳には強い決意が宿っていた。
対するは、深き闇を纏う堕天使アザリエル。
その翼は黒炎に包まれ、足元から現れる影は触れるものすべてを飲み込む奈落のよう。
「なぜだと? アリエル、お前が光を選び、私を見捨てたからだ……!」
アザリエルが叫ぶと、虚空に闇がうねり、無数の黒い槍が生み出される。
それが一斉にレイラを貫こうと襲いかかった。




