第11話 Drノアの研究拠点 選ばれし者たち
第二エリア《幻影試練領域》
無音のまま、重厚な鋼鉄の扉が開いた。蒼白い光が差し込み、レイラとアイゼンハワードの前に広がったのは、ねじれた迷宮のような空間だった。
足元に敷かれた透明な床の下には、過去の光景が投影されていた。街、学校、家族の姿――そして、レイラ自身が幼かった頃の姿も。
「ここは……私の記憶?」
レイラが一歩踏み出すと、景色が変わる。彼女の母が病床に伏す映像。誰も助けてくれなかった日々。孤独、怒り、そして無力感。感情の渦がレイラを包む。
「……やめて……見せないで……!」
しかし記憶は終わらない。目の前に現れたのは、母の命を奪った“黒き病魔”――それを生み出したのは、かつてノアの研究所から漏れ出した試作品だった。
「お前は守れなかった。何一つ」
幻影の声がレイラを責め立てる。膝をつく彼女。しかしそのとき、胸の奥から微かな声が響いた。
「泣かないで、レイラ。あなたは選ばれし者。私は……あなたの中にいる」
その声は、優しくも力強い響きを持っていた。白銀の羽音が空間に満ち、レイラの背に、かすかな光が灯る。
「……あなたは、誰……?」
「私はアリエル。かつて“光の大天使”と呼ばれた存在。アザリエルと戦い、力尽き、そして……今、あなたの中で目覚めの時を待っていた」
レイラの意識が、遠い記憶と繋がる。彼女の魂の奥には、封じられしもう一つの記憶。アリエルの記憶が宿っていたのだ。
映像が再び変わる。太古の空、天界での戦い。剣を手にしたアリエルと、堕天の力を纏ったアザリエルが激突していた。
「これが……私の過去……?」
「そう。君は私の転生体。運命は巡り、再びアザリエルと向き合うため、私は君に託された」
レイラの周囲に光が集まり、白銀の羽がはっきりと顕現する。瞳は燃えるような金色に輝き、かつての“戦士”としての力が覚醒していく。
アイゼンハワードが静かに見守っていた。彼は言葉もなく、ただレイラの覚醒の瞬間に敬意を表していた。
「……ありがとう、アリエル。そして私も、もう逃げない。私の力で、ジェームズも、アイゼンハワードも、みんなを守ってみせる!」
次の扉が、その決意を受け入れるように、音もなく開いた。
第三エリアへ。
黒と赤の螺旋通路が、その先へと続いている。
螺旋状に歪む空間を抜けると、そこは時の流れすら捻じれたような、異様な光景だった。空も地も溶け合い、浮遊する石の階段が永遠にどこかへと続いている。中央には、古代文明の遺物と思しき巨大な門《時の門》が静かに佇んでいた。
そして、その前に立つ二つの影。
一人は、白衣の裾を翻し、不敵な笑みを浮かべる男、Dr.ノア。
もう一人は、漆黒の翼を広げ、赤き瞳でレイラを見下ろす、堕天使アザリエルだった。
「……来たか、レイラ。お前の役割はここで終わる。そして新たな世界が始まる」
ノアが言うと、アザリエルの翼がゆっくりと広がる。翼の羽根一枚一枚がまるで刃のように光を反射していた。
「レイラ……お前の中に眠る“光の記憶”天使アリエルの魂。それは我が永劫の敵だ。今ここで完全に消し去らねばならぬ」
アザリエルの声は、深淵から這い上がるような静けさを持っていた。
「“神核融合”の儀式が始まる。ダークアースとライトアースを一つにし、《時の門》を開く……。その力でこの世界の未来を書き換え、我々が新たな創世主となるのだ」
ノアが天へ手を伸ばす。空に浮かぶ2つのコアが激しく震え、互いに引き寄せられていく。光と闇が渦を巻き、門の中心部が徐々に開いていく。
「……やらせない! ジェームズはどこ!?」
レイラが叫ぶと、ノアは口元を歪ませ、手をひと振りした。
その合図に応じるように、空中の岩が割れ、鎖に繋がれたジェームズ博士の姿が現れた。
「レイラ……行け……奴らを……止めるんだ……!」
博士の声が届いた瞬間、アイゼンハワードが前に出た。
「レイラ、ジェームズは俺が助ける。お前はアザリエルを止めろ! 奴だけは……お前にしか倒せない!」
レイラの背に、光の羽が現れる。まるでかつてのアリエルが覚醒するように、彼女の中の天使の記憶が光を放つ。
「アザリエル……あなたを止める。私は“アリエル”の意志を継ぐ者として、ここで終わらせる!」
アザリエルが翼を広げ、空へ舞い上がる。その瞳に宿るのは憐憫か、それとも嘲笑か。だが次の瞬間、空間ごと斬り裂くような一撃がレイラへと降り注ぐ。
Dr.ノアは儀式を続ける。
「時の門よ……我に過去を、未来を、そして世界の書き換えを!」
時空を超えた運命の対決が、ついに幕を開ける。
レイラ vs アザリエル。
アイゼンハワード vsDr. ノア。
そして人質のジェームズ
すべての真実が暴かれ、選ばれし者たちの物語は終局へと向かう。




