第10話 Drノアの研究拠点《黒鋼の胎内(クロム・ウォンブ)》
闇神核を手にしたアイゼンハワードと、光の力を覚醒させた天使・レイラは、荒廃した教会の聖堂でひとときの静寂を過ごしていた。
その時、空間が歪み、ノイズ混じりの転送通信が差し込む。
「……ごきげんよう、アイゼンハワード、そして天使になったレイラよ。おめでとう。だが、遊びは終わりだ」
それは、ドクター・ノアの声だった。
「お前たちが手に入れた“闇神核”と“光神核”正しくは《ダークアース》と《ライトアース》。あれらは、私の開発を完成させる最後のピースだ。ついては、ご招待しよう。我が《研究拠点:黒鋼の胎内》へ」
通信の最後、ノアは意味深な一枚の映像を送ってきた。
それは、鉄格子の檻の中で、ぐったりと座り込むジェームズ博士の姿だった。
レイラが震える。
「ジェームズが……生きていた……!」
アイゼンハワードは唇を噛んだ。
「誘ってやがる……闇神核を手に入れたのを見越しての罠か」
しかし行かねばならない。ジェームズを見殺しにはできない。
レイラも頷いた。
「なら、私たちはこの力を使って、奴の企みを打ち砕きましょう」
潜入:研究施設・黒鋼の胎内
ノアの研究所は、廃棄されたシールド地下鉄道の最下層に構築された異形の要塞だった。半機械化された魔導兵、魂を封じ込めた警備装置、そして魔法結界による無数のトラップ。
第一エリア:《実験失敗したモンスター達》
ケルナ島の研究施設。そこは生きているように軋む鋼鉄の迷宮だった。足音ひとつで壁の機械が振動し、魔導回路が脈を打つように光を放つ。天使の翼をたたみ、警戒するレイラの後ろで、アイゼンハワードは手にした闇神核を見つめながら歩を進めていた。
「誰かが……監視しているな」
「うん。でも、もっと嫌な気配がする……これは、“生”とは違うもの」
レイラの言葉が終わらぬうちに、前方の壁が突然せり上がる。現れたのは、異形の存在だった。
捨てられた実験体たち。
かつて人であったのかすら不明な、肉塊に金属を縫い付けられた“モンスター”たちが、よろよろと立ち上がる。片腕がドリルと化した巨人、全身が瘴気に包まれた浮遊体、魔導刻印で暴走したエネルギーを吐き出す獣型機械。
「これが……ノアのやり方か」
「もう……魂すら叫んでない。壊すしかない!」
レイラの翼が光をまとい、彼女の手に現れたのは光の聖剣。一閃、光の斬撃がモンスターたちを貫く。
だがその奥から、さらに大きな扉が開いた。
「侵入者反応。起動コードNo.133、“グラヴィアス”を起動」
機械音声とともに、天井から鎖に吊るされた巨大な球体がゆっくりと降下してくる。それは自我を失った試作型戦闘兵器。脳波制御による“対天使用実験兵”として設計された、魔導機動兵器――《グラヴィアス》。
重力場を操る力を持ち、周囲の床がねじれ、空間が歪む。
「レイラ、下がれ! こいつはただの物理攻撃じゃない!」
「わたしも、もう守られるだけじゃない! 《聖域展開:セラフィック・ドーム》!」
光と闇が激突する。空間が崩れ、爆裂音とともに研究施設の壁がひび割れる。
闇神核の力を解放したアイゼンハワードの一撃――《黒翼穿通》がグラヴィアスの制御核を粉砕する。
「……実験失敗体とはいえ、あの戦力……」
レイラは振り返る。
「こんな存在を……量産していたら、世界が滅ぶ」
道中、レイラの中に眠っていたさらなる力が覚醒していく。
「……私の中に、なにかが語りかけてる……」
それはかつて封じられた天使アリエルの記憶。彼女もまた、堕天使アザリエルと戦ったかつての戦士だったのだ。




