第6話 堕天使アザリエル復活
廃路線・ロンドン地下鉄13号線 深夜2時34分
誰も知らぬ“もう存在しない駅”。
地図からも記録からも消された幻の路線「13号線」の最深部
そこに、Dr.ノアはいた。
錆びたレールの上に、膨大な魔導陣が描かれている。
天井からは時折、腐った水が滴り落ち、地下の冷気が骨の奥を刺すように漂う。
Dr.ノアの白衣は泥と血にまみれていた。
その手に握られていたのは、千年前の堕天戦争で封じられた
「堕天録アナヘル」。
そこには、決して蘇らせてはならぬ存在アザリエルの封印呪が記されていた。
ノアの瞳は狂気に満ちていた。
「我が知性は、この腐敗した世界では報われない。
ならば……かつて“天をも堕とした”叡智に頼るまでよ。」
彼は詠唱を始める。
《イグラエ・ヴァル=サラ・アザリエル……冥き空に封じられし堕翼よ……》
電力の通っていないはずの廃駅に、突如として灯が灯る。
それは光ではなく――“影の明かり”。
魔法陣が淡く黒紫に光り、空気が震え出す。
そして、床下から聞こえる。
“ゴゴ……ゴ……ゴ……ン”
まるで、何か巨大なものが“地の底を這い登ってくる”音。
ノアは興奮に震える。
「アザリエル……堕ちた天使よ……
再びこの地に舞い降りよ。共に、新たな世界を創造しようではないか!」
破裂音とともに、魔法陣の中心が崩れ――そこから“黒き腕”が現れた。
筋繊維のような鎧、爛れた天使の羽、そして全身を貫く“封印の杭”。
アザリエルだった。
彼は呻き声のように、深く、腐敗した声で言った。
「……ノア……その名……思い出したぞ……貴様は“あの魔学者の末裔”か……?」
ノアは跪いた。
「恐れ多きこと……。私はただ、あなたの叡智に触れたく、ここまで来たのです。」
堕天使アザリエルは、束の間、静かに周囲を見回し
「……人の世界は……まだ壊れていなかったのか。ならば……やり直しが必要だな……。」
その瞬間、地下の封鎖された空間に異常な重力が生じ、
廃駅全体が“堕ちるように沈み始めた”。
そして、
「……やめろ、Dr.ノア!」
裂けるような声とともに、線路の影から現れたのは、アイゼンハワードとレイラだった。
アイゼンの瞳がアザリエルをとらえた瞬間、彼の全身が震えた。
「……アザリエル……貴様、また出てきおったか……。あの時の償い、いまこそ返してやる。」
堕天使アザリエルは、ゆっくりと顔を上げ――
「懐かしい顔だな。
魔界の裏切り者、アイゼンハワードよ。お前も、まだ壊れていなかったとはな。」
ノアは一歩下がり、嗤った。
「さあ、因縁の続きを……ここで終わらせてください、アイゼンハワード!」
剣を抜く音。
銃を構えるレイラ。
廃駅の空間に、再び“封印されるべき災厄”と、“止めねばならぬ意志”が激突する。
血と記憶の交差点
そして、地下に眠る“もう一つの門”が、微かに脈動を始めていた。




