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【ランキング12位達成】 累計52万2千PV運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』

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第3話 消えた考古学者と謎の女

ロンドンは、ちょうど夕暮れを迎えていた。

濡れた石畳に西陽が鈍く反射し、霧混じりの風がテムズ川をゆっくりと撫でてゆく。


その街を、黒いトレンチコートに身を包んだ男が歩いていた。

アイゼンハワード。血塗られた伯爵として恐れられた魔族にして、今や一人の隠居老人。しかしその目は衰えていない。すれ違う人の顔を無意識に分析し、足音の遠近で敵意の有無を測る。老いてなお、鋭利な刃のような男。


「……ふむ、やはりこっちへ来ておったか」


老人の目が、橋の向こうに浮かぶ一人の男をとらえた。

テムズ川越しに見えたのは、スーツ姿のジェームズ・ウィンチェスター。久美子の夫であり、職業は考古学者のはずだが、どうにも怪しい動きが続いていた。


「この時間に単独行動。しかも家には“学会”と言って外泊……まったく、婿殿とはいえ胡散臭いのう」


アイゼンは川を渡り、気配を殺してジェームズを尾行しはじめる。

ジェームズは人気の少ない裏通りを抜け、古びた煉瓦の建物裏に姿を消した。


アイゼンも物陰に身を潜めて様子をうかがう。

しばらくして


「……女か?」


ジェームズの前に現れたのは、長い黒髪の美しい女性だった。

高級な黒のジャケットに身を包み、すらりとした長身。まるで女スパイのような雰囲気をまとっている。


(なんじゃ、浮気か? あれは……妙に親しげな空気じゃな。こら久美子が泣くぞ)


だが次の瞬間、アイゼンの予想は覆された。


「伏せろ!!」

女が叫ぶと同時に、ジェームズの周囲に複数の黒ずくめの男たちが現れた。

手際よくジェームズを押さえ、電撃のような何かで気絶させ、あっという間に車へと連れ去っていく。


「な、なんじゃ今のは!? これは……浮気どころではないのう」


アイゼンが追おうと一歩を踏み出した、


そのとき


「追っても無駄よ。あの連中は、あなたが思っているよりずっと厄介」


冷たい声が背後から届く。


老人が振り向くと、そこにはさきほどジェームズと会っていた謎の女性が立っていた。


「おぬし……何者じゃ?」


女は静かにバッジを差し出す。

MI6イギリス情報局秘密情報部。


挿絵(By みてみん)


「私はレイラ。MI6の対異能特務課所属。そして、あなたを迎えに来たの」


「迎えに? わしをか? ……なぜわしのことを知っておるのじゃ?」


レイラは表情を変えず、淡々と答える。


「あなたの戦歴は、世界中のインテリジェンスに記録されている。

中東、東欧、そして極東の紛争地帯。姿を消したと思われていたが、引退後も一部では“生ける伝説”として調査対象だった」


アイゼンは鼻を鳴らす。


「生ける伝説、のう……便利な言葉じゃ。ま、悪い気はせんがな。で、婿殿はなぜ攫われた?」


「それも含めて、これから話すわ。場所を移しましょう。あなたには知る権利があるし、戦う義務もね」


アイゼンはその場で短く息を吐くと、ひとつだけ心の中で呟いた。


(戻ってこなかったら許さないからね。晩ごはん抜きよ)


出かける前、幸子に言われた言葉だった。


「……まったく、世界の危機じゃ仕方あるまい」


老人の背筋がピンと伸びた。

その瞳は、再び戦場に戻る男のものだった。



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