エピローグ 『さっちゃんの手紙』
現代。
午後の穏やかな陽ざしが、リビングの窓から差し込んでいた。
テーブルには紅茶と、小さなレターセット。
さっちゃんは静かに便箋を折り、封筒に収めると、ふっと微笑んだ。
「……あたしはあの時、アルを選んだ。そして今も、ずっと」
隣には、少し照れたような顔のアル。
彼の姿はかつての魔界の貴族いや、それを超えた「人間らしい温もり」を帯びていた。
鋼の仮面を脱ぎ、過去の罪をも受け入れた男。
さっちゃんはくるりと椅子を回し、幸子に向き直った。
「ねえ、知ってる? あたし今、毒舌を学んで“ツッコミの鬼”になったのよ」
「えぇ……なんで毒舌に」
と幸子が笑う。
「人間観察の成果よ。人間って、面白い。泣いて笑って、裏切って、それでも
手を取り合うんだもの」
彼女の瞳は、かつて戦場にいた少女のものではなかった。
選ばれなかったはずの命が、選び直しの未来を生きている。
アルはさっちゃんの手をとり、そっと握った。
その指は、戦いで何度も血に染まり、今は人のぬくもりを知っていた。
幸子もそっとその輪に手を添える。
かつての“魔界の貴族”と、“人間としての娘”
二つの世界の交差点に、確かなぬくもりがあった。
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あの日、世界が終わってもいいと思った。
でも、終わらせなかった。
あなたがいたから。
あなたの手が、あたしの手を放さなかったから。
たったひとりでいい。
たったひとつでいい。
守りたいと思えるものに、出会えた。
この命を、もう誰にも奪わせない。
あたしは生きる。
笑って、怒って、ツッコんで――愛して、生きる。
そのすべてに、ありがとう。
BYさっちゃん
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アルと幸子、そしてさっちゃん。
過去を越えた者たちは、今、新たな一歩を踏み出す。
『アイゼンハワードの過去編 ―魔界の貴族編』
ー完ー




