表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

399/1396

第12話 魂なき監視官

暗い森に、静かな緊張が張りつめていた。


濃密な霧の中に、鋭い気配が浮かぶ。

枯れ枝を踏む音一つ、咳払い一つ、命を落とすには十分すぎる夜だった。


ザガード魔王直属の処刑官。

鋼鉄の仮面の奥には、感情の一滴もない。

そこにあるのは、「命令を遂行する」という、無機質な意志のみ。


彼は、静かに口を開いた。


挿絵(By みてみん)


「ギアチルドレンG-04。命令を再送する。

裏切り者・アルを抹殺せよ」


さっちゃんの瞳がわずかに揺れた。

その手には、かつて魔王から与えられた黒刃が握られている。


「……アルは……裏切ってなど、おらぬ」


「命令に背く者はすべて裏切り者だ」

ザガードは一歩、霧の中から現れる。その黒い外套が地面を這い、森を冷たく染めていく。


「貴様の“感情”は、機能障害だ。ギアチルドレンに“心”は不要。記憶の誤作動が、判断を狂わせている」


「それでも、わしは……あの人を守りたい」


「……ならば、“処分”対象は二人に増えるだけだ」


刃を振るうでもなく、ザガードの声には何の揺れもなかった。

まるで、落ち葉を掃除するような無関心さで。


「さっちゃん、下がれ」

アルが前に出る。肩は傷つき、魔力は限界に近い。だが、その目はまだ戦意を灯していた。


「ザガード、おまえの正義には、心がない。機械のように命令を繰り返すだけで、人を裁く資格などない」


「貴様に“裁き”を語る資格はない。かつて我らを捨て、人間界に逃げた裏切り者が」

ザガードの手に、呪術の紋章が浮かぶ。地面が黒く染まり始める。


「じゃが、わしは逃げてなどおらん」

アルは拳を握る。「選んだんじゃ。人間も魔族も、どちらかに染まることをせず……おまえのような“魂なき監視官”にならんことを」


その瞬間、ザガードが動いた。

空間を断ち割る黒刃。さっちゃんの前に飛び出したアルが、その一撃を受け止める。


「アルッ!!」


衝撃で吹き飛ばされながらも、アルは微笑んだ。


「さっちゃん……選ぶんじゃ。命令じゃない、“おまえ自身の意志”で」


「黙れ」


ザガードが冷たく言う。


「意志で動く者など、制御不能のバグにすぎん。貴様のような異端者は、存在そのものが害悪だ」


そして、次の瞬間

ザガードの刃が、さっちゃんの胸元を貫いた。


「……!」


「ギアチルドレンG-04、これで貴様も処理対象だ。任務は失敗と見なす」


さっちゃんは崩れ落ちた。

しかし、その目は死んでいない。むしろ、初めて“生きている”光を宿していた。


「ザガード……」


アルがさっちゃんを抱えながら、血を滲ませた声で言う。


「もう、貴様のようなやつを……この世に生かしてはおけん」


静かな森が、魔力の奔流に震え始める。


魂を持つ者と、魂を否定する者。

意志をもって背く者と、命令に従い続ける者。


運命を懸けた一騎打ちが、ここに始まる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ