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【ランキング12位達成】 累計58万PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第5話 黒魔術師マーリンの予言

星辰の間

魔界最深、時の流れさえ鈍る静寂の聖域。


天井から吊るされた数多の光玉が、ぼんやりと宙に浮かび、世界の真理を語るように瞬いていた。

中央に据えられた巨大な水晶球は、澄んだ氷のような光を湛え、そっと呼吸しているかのようだった。


マーリンは静かに目を閉じた。

長い銀髪が、風のない空間にゆるやかに揺れる。


挿絵(By みてみん)


「……いざ、開け。運命の渦よ」


白く細い指が、水晶の表面をなぞる。

すると球体が淡く青白く光りはじめ、内側に波紋が走った。時の湖に、小石が落ちたかのように。


しばし、沈黙。


やがて、マーリンの眉がぴくりと動く。瞼が開かれ、眼差しが凍りついた。


「……これは……まさか……」


水晶に映るのは、アイゼンハワード。

かつて血塗られた伯爵と呼ばれた男が、再び剣を握り、血塗られた道を進む光景。そして、その背に、少女G-04 リリス・バイトさっちゃんの姿。


「アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。あなた……再び魔族を裏切りに手を染める未来が、はっきりと視えたわ」


その時、水晶の波紋が二重、三重に重なり、別の像を結ぶ。

今度はさっちゃん。まだ人間の感情に無垢な、無表情の少女。


マーリンの喉がわずかに震える。


「……この子……これは……何?」


水晶球が突如、白銀の光に包まれ、聖域全体を明るく照らした。まるで神の御座に近づいたような、荘厳な輝き。


「《救世の女神》……? この少女が……?」


像の中で、さっちゃんは涙を流していた。誰かを庇い、誰かのために祈り、誰かのために微笑む未来。


「そんな……まさか……ギアチルドレンで作られた彼女が……?」


マーリンはふと気づいた。自分の心が、初めて“占いの結果”に揺らいでいる。

確率ではない。予兆ではない。これは確かな“可能性”だ。


その時、背後に現れたのはアルだった。


「マーリン。俺を呼んだか」


「……占いの結果を、あなたに伝える義務があると思って」


マーリンは振り返り、静かに告げた。


「未来は、あなたが再び裏切りの剣を握ると告げている。……今度は、誰かの命令ではなく、“あなた自身の意志”で」


「……そうか」


アルは目を伏せる。

マーリンは続ける。


「そしてもうひとつ。あなたの傍らにいる少女――さっちゃん。

……彼女は、滅びゆくこの世界を救う《女神》になるかもしれないと、占いに出たわ」


「……それは、皮肉だな。人が作った兵器が、世界を救う女神になるなんて」


「ええ。私も信じたくない。だけど――」


マーリンの瞳が真っ直ぐにアルを見据える。


「あなたたちの未来は、もう“予定された終末”の外にある。

今のあなたがどう動くかで、星の運命すら、変わってしまうかもしれない」


「なら……俺が何を選ぶかは、まだ“未定”ってことか」


アルの言葉に、マーリンはふっと目を細め、わずかに微笑んだ。


「……あなたとまた、将来会う予感がするわ。その時、私たちは敵か味方か……それすら、この占いには映らなかった」


静寂が、ふたりの間を包む。


その夜、マーリンは星辰の間で独りつぶやいた。


「……ギアチルドレンの少女に、心が宿ったのなら。

この世にもう、予測不能の奇跡が起き始めているのかもしれないわね」



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