第2話 鋼鉄の心の子供たち(ギアチルドレン)
虚無に沈むアルの眼前、玉座に座す魔王ガルヴァ・ネクロデスは、かすかに口元を歪めた。
「……今度は人間どもを"育てる"のだ。貴様のように、心を殺した者にしか務まらぬ任だ」
アルは言葉を返さない。ただ、その意味を問い返すように視線だけを上げる。
「人間を滅ぼす新計画《ギアチルドレン計画》と名づけた。
人間の子供たちを素材に、魂と肉体を魔物へと置換し、
“従順なる心なき兵”を製造する。これは魔界の未来を担う鍵となる」
魔王が手をかざすと、空中に図面とデータが浮かび上がる。
その中には、拘束されたまま改造を受ける無数の子供たちの姿、
そして「Gナンバー」で管理されたプロトタイプ群のリストが並んでいた。
「……我らは神の創造を模倣し、“戦争のための子供”を産む。
貴様にはその監視と、最初の“感情抹殺”試験を命じる」
■■
魔界第七機関。
その中心部に位置する研究棟「深黒ノ檻」へ、アルは一人で足を踏み入れた。
そこには、冷却カプセルに眠る無数の子供たちがいた。
少年も、少女も、すべて無言で夢を見ている。
手足は機械に置き換えられ、心臓には魔力炉、脳には感情制御装置が埋め込まれている。
「ようこそ、アル様」
白衣の主任研究員・ラグス博士が擦れた声で出迎える。
「これがギアチルドレン計画の中心区画です。現在、12体が実戦配備待ちですが……特に優秀なプロトタイプが1体おりまして。先にお渡しせよとのご命令でした」
博士は奥の格納ユニットを開く。そこには、銀の髪を持つ少女が眠っていた。
「G-04型:コードネーム《Lilith Byte》」
「量産化には至っていない試作機ですが、攻撃性能、演算能力、自己学習率いずれも最上位です」
その少女は、静かに目を開けた。
瞬間、瞳が赤く光り、アルを捕捉する。
「識別信号確認……あなたが、私のマスター?」
「……そうだ」と、アルは応じた。
少女は軽く微笑んだ。だが、その笑みには“作られた人工の愛想”が混じっていた。
そして、その背後から、さらに一人の実験体がアルに声をかける。
「……ねえ。あんた、感情がないんだね」
その毒舌な少女、“さっちゃん”が現れるのは、まだ少し先のことだった。
ギアチルドレン計画は、始動した。
アルの新たな任務は、人間を滅ぼす“鋼鉄の子供たち”を率い、冷徹なる破壊をもたらすこと。
だが彼の心には、復讐すら終えた空虚とともに、わずかに残る“違和感”が芽吹き始めていた。
■ギアチルドレン計画(GEAR CHILDREN PROJECT)
【概要】
魔王ガルヴァ・ネクロデス直属の研究機関〈終焉機関オブリビオン〉によって立案・実行された、人間社会への“内側からの終末”を引き起こすための超極秘計画。
「GEAR」とは、Genetically Engineered Annihilation Reagent(遺伝的消滅因子)
の略であり、"子供"として人間社会に紛れ込ませる「破壊の歯車」を意味する。
【目的】
人間の感情、倫理、そして信頼関係を内側から破壊する。
人類文明を戦争や内乱、疑心と不信で瓦解させ、魔界の進行を無抵抗で受け入れさせる。
ギアチルドレンは人類滅亡の「カウントダウン装置」となる。
【方法】
人間の孤児・奴隷を魔界に連れ去り、感情抹消処理と肉体改造を実施。
強化手術:魔力適合、洗脳、痛覚調整
感情遮断:愛、共感、恐怖、羞恥を抹消(感情遮断フィルタ)
脳内コード:起動ワードによって暴走/自爆も可能
人間界に潜入させ、「子」として育成・配置」
貴族の養子、孤児院、スラム街に放流
特定の命令や刺激によって覚醒し、破壊活動を行う
自我を芽生えさせずに死ぬか、人類を破壊するまで機械のように従わせる。




