第12話 帝国と王国、最後の戦い 終幕
王都エルミナスが燃えていた。
昼も夜もない。空は紅蓮に染まり、鐘楼は砕け、
王城の尖塔は、炎と煙に呑まれて傾いていた。
帝国の侵攻はすでに最深部へと到達し、
王国は、名実ともに崩壊の淵にあった。
民は逃げ惑い、兵は命を捨てて姫の時間を稼いだ。
だが
玉座の間にまで、ついに火が届いた。
「ティアラ様!!」
兵の絶叫もむなしく、姫は囚われの身となった。
帝国の将校が、血に濡れた剣を突きつける。
「姫を生かす理由は、もはやない」
その刹那だった。
ズガァンッッ!!!
王城の天井が爆ぜた。
嵐のような黒い影が、瓦礫とともに現れる。
「その命に……触れるな――!!」
それは、アル=アイゼンハワード。
その眼は血のように赤く、
怒りを超えた沈黙の刃が、空間ごと敵兵を斬り裂いた。
「退け……これは俺の戦場だ」
刹那、十数人の帝国兵が彼の一撃で吹き飛び、
灰となって床に散った。
姫の傍らへと駆け寄り、その身体を抱き上げる。
「ティアラ……無事か……?」
「……ああ……アル……」
その声は、あまりにもかすかだった。
白いドレスは赤に染まり、胸には深く鋭い傷。
剣が、心臓を貫きかけていた。
「こんなところで、死ぬな……!医師を……癒し手を……!」
「……いいの……もう、いいの」
彼女は微笑んでいた。
なぜか、穏やかに。
「私……最後まで……夢を見ていた……あなたと、過ごせた……」
「……お前は……俺なんかを……」
「……人間でも、魔族でも……私は……あなたを、信じた」
涙がこぼれる。
アルの手のひらに、姫の血とぬくもりが流れ落ちる。
「ふざけるな……ふざけるな……!!」
「俺はお前を……守ると……誓ったんだ……っ!!」
彼の声に、応える者はいなかった。
ティアラ姫の瞳は、優しく開いたまま
もう、何も映していなかった。
アレルシア王国は、滅びた。
炎の中で、アル=アイゼンハワードは姫の亡骸を抱きしめ、
ただ一人、膝をついていた。
民も、兵も、誰ももう彼を止められはしなかった。
空が黒く染まり、雷が地を裂く。
彼の中の“理性”が崩れていく。




