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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第6話 真実に近づく者

「……貴様、どこで剣を学んだ?」


訓練場の朝、

兵団長ベルクは、肩に剣を担いだまま、じっとアルを見つめていた。


灰色の髪に、獣のような目。

王家直属の最古参。軍の頭である男は、直感に忠実だった。


「王都の傭兵とは思えん。斬撃に“ためらい”がない。人間のそれではないな」


アルは軽く目を伏せ、笑みを浮かべた。


「評価、痛み入ります。ですが、戦場では、生き残るために“ためらい”など捨てました」


「……ふん」


だが、ベルクは背を向けると、

「気をつけろよ、アル。王子殿下は……鼻が利く」と、低く呟いた。


その日の午後。

リシャール王子が、アルの私室を訪ねてきた。


「……異国の傭兵と聞いていたが、どこの言葉でもない言葉を、お前は時折、口にするな」


王子は細身の剣を杖のようにつき、細い瞳でアルを見据えていた。


「ティアラの命を救った男として感謝はしている。だが……お前の目は、なぜか“喪っている者”の目をしている」


(……王族特有の“勘”か。これ以上深入りされれば、魔王からの処分も避けられん)


アルはゆっくりと立ち上がり、

魔力を指先に集めた。


魔族の術法。対象の心臓を一瞬だけ“麻痺”させ、自然死に見せかけて絶命させる技。


簡単なことだ。

指を鳴らせば終わる。

それが“任務”ならば、躊躇など……


だが


リシャール王子がふと、窓の外を見て言った。


「……ティアラは、ああ見えても子供のころ、母を病で失っていてな。

 強くあろうとして、あんなに鋼の心を持ってしまったのだ。

 それでも、今の彼女は……お前が来てから、少し“柔らかく”なった」


アルの指が止まる。


(殺せない)


静かに、魔力をほどいていく。


王子が部屋を去ったのは、それから数分後だった。


その夜。リシャール王子は突如、倒れた。


心臓発作と診断された。

遺体に傷も痕跡もなく、毒物反応もなし。


「不自然すぎる」と囁く声が、城の廊下を這った。


そして


夜の塔の回廊に、

暗い影が二つ、月を背に立っていた。


「お前が“殺さなかった”のは、見逃してやる。だが……もう限界だ、アイゼンハワード」


それは、ザガード・メル=ファングだった。


挿絵(By みてみん)


冷たい銀の瞳に、怒りはなかった。

ただ、失望と確信だけがあった。


「貴様はもはや“魔族”ではない。

 心を殺せぬ者が、何を誇りに生きる」


「私は任務を果たしてきた。弱さを抱えてはいても、まだ」


「いいや、“人間の目”をした時点で、お前は終わりだ。

 魔王陛下は貴様の処分を私に一任された。次、背くようならティアラ姫の命、私がもらいうける。」


その言葉が、確かに心臓を刺した。


そしてそのやりとりを

回廊の陰で、ティアラ姫は聞いていた。


目を見開いたまま、声を殺し、震えていた。


“アイゼンハワード”

“魔族”

“処分”

“ティアラ姫の命”


何一つ意味がわからなかった。

けれど、それは確かに感じた。

その場に流れていた、“自分だけが知らない真実の空気”を。


そして、アルの目の奥に、

これまで見たことのない、深くて冷たい哀しみを。


(……私は……何を信じていたの?)


ティアラ姫の心に、“信頼が崩れた痛み”が灯る。



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