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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第4話 魔法の鈴と、裏切りの契約書

ミヤザキの油津の海に、少し早めの秋風が吹いた。

理髪店「理髪 なつこ」には、どこかよそよそしい空気が漂っている。


その日、アルことアイゼンハワードは、予約もなしにふらりと髭を剃りに訪れた。椅子に座る彼に、白衣のなつこはいつものように微笑む。


「少し…伸びてるわね、アルさん。今日はヒゲを剃りましょうか」


彼女の指先がクリームを顔に乗せ、手馴れた動きでカミソリを滑らせる

かに見えたその瞬間、


銀のカミソリの刃が、アイゼンハワードの喉元にピタリと止まった。


「なつこ……?」


「……私、町を守るために“悪魔と契約”したのよ」


声が震えていた。

いつもの柔らかい口調ではなく、過去に何度も涙を飲んできた者の声だった。


「この店もね、天道組に脅された。断れば、家族を人質にされるって。

 借金も背負わされた。私はね……アルさん、もう、どうすればいいかわからなかったの」


そのまま、手元の剃刀をぐっと力を込めて当てる。


「私のこと、もう信じられないでしょう? だったら……ここで終わりにして」


「やめなさい、なつこ」

アルの声は低く、だが確かな重さを帯びていた。


「俺の首を掻っ切って償うつもりか? 魔界の貴族の命を奪ったって、お前の罪は消えやしない」


しばし、沈黙。


その時だった。


天井に吊るされた、あの小さな魔法の鈴が風に揺れて、音を立てた。



カラン♪



二人の間に、切ない音色が落ちた。


「この魔法の鈴を鳴らした人と、結婚するの……なんて、馬鹿なジンクスよね」


「そうか? 俺は嫌いじゃねぇよ。人を信じたいって想いが込められてるからな」


なつこは目を伏せ、唇を噛み締めた。


「私は……きっと、誰かに赦されたいだけだったのかもしれない。

 でも、本当に守りたかったのは、この町で笑って暮らす人たちだった。

 それが、私の嘘じゃなかったって……証明したいのよ」


アルは、立ち上がって鏡を見た。


「じゃあ、その魔法の鈴に誓え。お前の心が嘘じゃないと」


なつこは涙をこぼしながら、深く頷いた。



その夜。

港の高台にある旧庁舎で、白牙リアルエステートと天道組による“契約調印式”が行われようとしていた。

古い商店街の土地はすべて整理され、リゾートマンション建設の準備が整っている。


だが、会場にアイゼンハワードが現れる。


漆黒のマントをはためかせ、彼は言い放つ。


「この契約書には“血”が足りねぇ。つまり住民の魂が入ってねぇんだ」


空気が張り詰めた。


「この町に生きてる人間たちの想いを、そんな紙切れ一枚で塗り替えられると思うなよ」


かつて魔王軍四天王だった男、アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。


彼が静かに、しかし確かにこの町を守るために、立ち上がった。



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