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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第3話 白牙リアルエステートの魔の手

ミヤザキの油津の港町に、ひそやかな波紋が広がりはじめていた。


焼肉屋での一件から数日後


アルおじさんは、いつも通り理髪店「理髪 なつこ」の椅子に腰を下ろしていた。


だが、なつこのハサミの動きはどこか鈍い。目も合わず、無言のまま散髪が進む。


「……どうした。君らしくもない」


「いえ……なにも。最近、ちょっと疲れてるだけです」


そう言って微笑むが、その笑みには、確かに“曇り”があった。


その帰り道、商店街のシャッターがいくつも閉まっていることにアルは気づく。


乾物屋、駄菓子屋、古本屋……どの店主も一様に浮かない顔をしていた。


「実はな……アルさん。あの『白牙リアルエステート』って不動産が、うちの店舗を買いに来ててよ」


「ウチなんて、三代続いた呉服屋だけど……“今なら高く買いますよ”なんて言われたのよ。怖くて断れないわよ」


町のあちこちで、白いスーツを着た男たちの姿を見かける。


その背後には、先日アルが追い払った「天道組」の影。


「ふん、典型的な癒着構造だな。暴力と札束で建物と土地を買い漁るとは、魔界の“血沼商会”と同じじゃないか」


白牙リアルエステート。

地元の海沿いに“高級リゾートマンション”を建てるという名目で、買収を進めている悪徳不動産だ。


商店街は壊され、ホテルとスパ、そして“県外の富裕層向けの街”が作られるという。


その話は、ついに「理髪 なつこ」にも及んでいた。


「……契約書にサインすれば、数千万円の“立ち退き金”が入るそうです」


「そんな札束で、君は町に唯一ある。理髪店の立ち退きに納得するのか」


「……わかりません」


ちょうどその頃、アルの孫・カズヤが宮崎にやってきた。

社会人としての初夏の休暇を使い、

「どうもアルおじちゃんが妙な空気に巻き込まれてる」と聞いて様子を見に来たのだった。


カズヤは早速、白牙リアルエステートと天道組の関係を調査し始める。

学生時代の知人や、地元の法務局で土地売買の記録を調べ、彼らの動きがかなり強引であることを知る。


「……アルおじちゃん。これ、見て。なつこさんの土地、既に“仮契約”されかかってる」


「……馬鹿な。彼女が……」


「おそらく、誰かが“代理人”を装って契約を進めてる。印鑑も偽造されてる可能性ある」


アルは静かに目を閉じ、そして呟く。


「……白牙の“牙”が、町の命を食い始めているな」


やがて、ある夜。


なつこが一人、海辺で泣いている姿をアルは目撃する。


「……ごめんなさい。アルさん、私……ごめんさない。」


月夜の光が彼女を哀しく包んでいた。



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