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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第2話 ミヤザキ・油津の異変

ミヤザキ・油津の町。


雨の中、旅の途中で立ち寄ったアイゼンハワードことアルおじさんは、小さな理髪店「理髪 なつこ」で散髪してもらった縁で、そのまま数日間逗留することになった。


髪を揃えられながら、天井からぶら下がった小さな銀の鈴に目をやる。


「この魔法の鈴を鳴らした人と、私は……結婚するんですって」


と笑う女主人・なつこに、アルは思わず噴き出す。


「なんだそれは、魔界の呪物か何かか? …まさかとは思うが本気で信じておらぬだろうな」


「本気ですよ、私は」


それからというもの、アルはすっかり町の人々とも打ち解けていった。


魚屋のヨネさん。

焼き鳥屋の慎吾くん。

老舗喫茶のマスターも、魔族の元貴族が旅をしているという話を面白がって受け入れた。


だが。


この町には、どこか。空気のよどみがあった。


ある日、焼肉屋「たん吉」でランチをしていたアルの耳に、威圧的な声が飛び込んできた。


「よぉ、今月の“ご祝儀”まだ貰ってねぇぞ、たん吉さんよ」


入ってきたのは、黒いシャツにネックレスを光らせた三人組。地元で名を知られるヤクザ「天道組」の者たちだった。


店主が明らかに怯えた様子で、奥から封筒を取り出そうとする。


そこへ、アルおじさんが立ち上がった。


「やめておけ、焼肉が冷める」


「はァ? なんだこのジジイ」


「食の礼節を弁えぬ者に、客の資格はない。ましてやこの町の者に恐喝とは……下衆以下だな」


ヤクザが舌打ちし、ナイフを抜いた


瞬間、アルの漆黒の外套がざわりと揺れた。


詠唱が始まる。古代の魔語。圧倒的な魔力が地を揺らす。


「目覚めよ、古き獣よ……

闇よ、我が肉体を喰らい尽くせ。

王の血よ、魔獣の骨よ――

真の姿へと具現せよ……


《魔獣 ライカントロス》!」


風が唸り、焼肉屋の看板がたわむ。

店の中に、巨大な魔獣の影が浮かび上がった。


「な、なんだコイツ……!」


慌てて逃げ出すヤクザたち。

アルは席に戻り、のんびりと冷麺を啜る。


「……この冷麺、なかなか美味いな。焼肉もよかった。たん吉殿、続けてくれ」


焼肉屋の主人は、言葉を失いながらも深々と頭を下げた。


その夜、町の人々は静かにささやき合った。


「どうやら、あの理髪店に泊まってる旅人……ただ者じゃねぇな」


アルおじの行動が、この町に広がる見えない闇を照らし始めていた。


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