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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第1話 ミヤザキの風、雨宿りの鈴音

挿絵(By みてみん)

夏の夕刻 南国・ミヤザキの油津にて、雨雲が空を覆い、静かに、しかし確実に地を濡らし始めていた。


かつて魔界の名門にして、四位貴族の家柄にあった男が一人、

その古き風情の残る路地を歩いていた。


名を、アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウスという。

今はただ、「アルおじ」と呼ばれる、流浪の魔族の老紳士である。


雨脚が強まる中、アルは一軒の理髪店の軒先へと身を寄せた。

その扉には、小さな銀の鈴が吊るされており


カラン♪


扉を開けたとき、その魔法の鈴が静かに、だが確かに鳴った。


挿絵(By みてみん)


「いらっしゃいませ……あら、まあ」


店の奥から現れたのは、一人の婦人。

短く整えられた髪に、清潔な白のシャツ。

年頃は四十代後半か。落ち着いた微笑みの奥に、どこか寂しげな影を宿している。


「ずいぶん濡れていらっしゃいますね。どうぞ、こちらへ。

 よろしければ、髪などお整えいたしましょうか?」


「ふむ……そうじゃな。

 旅の身ゆえ、整容などおろそかになっておった」


「旅のお方で?」


「うむ。任務の一環でな。

 諸国を巡り、見聞を広め、また……失われたものを拾い集めておるのじゃ」


「まあ……それはまた、壮大なご職務ですね」


理髪椅子に腰かける。


「……随分と髪が伸びておられますね」


「齢を重ねると、時の流れに疎くなるものよ。

 だが、そなたの手は実に心得がある。心地よいぞ」


「ふふ、お褒めいただき光栄です。

 父の代から続く、この店だけが私の居場所でして……

 客人がこうして静かに座ってくださるだけで、嬉しくなるのです」


アルは鏡越しに、その女性の名札を見た。

「理髪 なつこ」



「雨はまだ止みそうにないですね。

 よろしければ、今宵は二階の部屋をお使いになってはいかがでしょう?」


「……なに? それは……遠慮のない申し出ではないか?」


「構いませんよ。空いておりますし、旅の方に静かな眠りを提供するのも、理髪師の務めです」


「……ふむ。

 それでは、お言葉に甘えるとしよう。礼を言う、なつこ殿」


彼女はふと、天井を見上げる。


「……そういえば、ひとつだけ、お伝えしておきたいことがございます」


「なんじゃ?」


なつこは、にこりと笑いながら、天井の鈴を指さした。


「あの魔法の鈴は、“最初に鳴らした方と結ばれる”という、古くからの言い伝えがあるのです」


「……なに?」


「まあ、ただの迷信ですけれど。

 でも、お客様が鳴らされた魔法の音……確かに聞こえましたよ?」


「……なんという不条理。

 わしはただ、雨を避けるために、扉を開けただけなのじゃが……」


「そういう方にこそ、鈴は鳴るものなのかもしれませんね」


「……むぅ……まこと、世の理とはままならぬものよ……」


夜になった。

しかし雨はなお止まず、

理髪店の古時計が静かに時を刻んでいる。


アルは借りた寝巻に着替え、窓辺に座って、遠くの雨音を聞いていた。


「……悪くない。

 旅の途中に、こうして温もりのある屋根の下におるのも――」


天井の魔法の鈴が、微かに風に揺れて鳴った。


カラン♪


アルは、そっと目を閉じて、呟いた。


「この旅が、また妙な道に繋がっておらねばよいがな……」


470歳の魔族のおっさん、

またしても“ご縁”に巻き込まれていくのであった。


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