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【ランキング12位達成】 累計58万PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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【最終話】別れの江ノ電駅~旅の終わりと、心の残響~

江ノ電・由比ヶ浜駅の売店脇。


「おっちゃん、一本百円ね。冷えてるよー」


ガラガラと音を立てて氷が詰められた桶の中には、串に刺さった冷やしキュウリが並んでいた。


「一本くれ。いや、やっぱ二本」


アイゼンハワード、通称“アルおじさん”は、魔界の元貴族。

だが今は、地上で孫のカズヤの恋路を見守る、ただの旅のおっさんである。


ひと口、ポリッとかじる。


「んー……沁みるわい。

 この夏は、花火と、涙と、冷やしキュウリか……」


口元に浮かべた笑みは、ほんの少しだけ寂しそうだった。



ホームでの別れ


挿絵(By みてみん)


「……ほんとに、行っちゃうんだね」


江ノ電の電車がホームに入ってくる音を背に、智子がポツリとつぶやいた。


Tシャツに短パン。今日の彼女は飾り気もないが、なぜか一番綺麗に見えた。


「行くよ。トキオーに。仕事もあるし、生活もあるし……何より、挑戦したいから」


カズヤの表情は、どこか吹っ切れたようにも見える。


「でもさ」


智子が続ける。


「トキオー、怖いの。……私は、ここにまだいたい。

 風の匂いも、朝の海の音も……あんたと歩いたこの場所も、まだ全部、忘れたくない」


「……わかってる。無理に連れていこうなんて思ってない」


電車のドアが開く音が、ふたりの会話を遮った。


沈黙。


「なあ、もう一回だけ、言っていい?」


「……なに」


「好きだよ、智子」


智子は答えなかった。ただ、じっとカズヤの目を見て

そっと背伸びをして、彼の胸に額を押し当てた。


「バカ」


それが彼女なりの“さよなら”だった。



江ノ電内にて

カズヤは席に座り、うつむいたままポケットからスマホを取り出す。


開いたメッセージアプリには、

《From:長瀬智子》

《また、来てね。ブルーハワイ用意して待ってる》とだけ書かれていた。


途端に、涙があふれてきた。


そこへ、アイゼンハワードが乗り込んできて、隣に腰を下ろす。


「お、おじさん!?なんで……俺、もう恋なんてしない」


「泣いてたろ。腹から泣け。こらえるな」


カズヤが大声で泣き始めると、アイゼンハワードはその背中を優しく撫でながら言った。


「恋しない、なんてな……

 何千遍も失恋した男女が言う言葉なんだよ」


「うっ……ひっく……!」


「恋ってのはな、傷ついた方が勝ちなんだ。

 のたうち回って、叫んで、恥ずかしくて死にたくなるくらいのが、

 ほんとの恋だ」


カズヤの肩に、夏の夕日が射していた。

江ノ電はゆっくりと、海沿いを走っていく。


ふたりの影が、座席の窓に長く伸びていた。


「じゃあな。俺は、ここで降りるからな」


駅を離れた後、アルおじさんはベンチに腰を下ろし、最後の冷やしキュウリを一本をゆっくりと食べた。


「まったく……若いってのは、ええのう」


ひとり言のようにつぶやいて、立ち上がる。


潮風が吹くホームに、ポリッという音がひとつだけ響いた。


この夏は、

花火と、涙と、冷やしキュウリ。


魔族の470歳、孫の恋と成長を見届けて

次なる旅へと、歩き出す。



『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ3~花火と涙と、冷やしきゅうり~』

【完】

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