第4話 花火大会の帰りの夜、交錯する想い
花火大会と夏祭りが終わって、通りの明かりもまばらになった頃。
カズヤはひとり、海沿いの神社の裏手で缶ラムネを飲んでいた。
「……あんた、こんなとこでなにしてんの?」
ふいに背後から聞こえる声。
振り向けば、浴衣を着直した智子がいた。
「……待ってたわけじゃねえからな」
「ふーん、じゃあ帰ろっかな」
「おい、早いな!」
そんな他愛のないやりとりも、祭りの終わった静けさの中では妙にくすぐったい。
「今日の花火、綺麗だったな。お前も…ちょっと、綺麗だった」
「“ちょっと”が余計。ほんっと下手ね、そういうの」
「悪かったな、営業トークばっか鍛えられてるから」
ふたりは神社の裏手にあるベンチに並んで座る。
月が静かに雲間から顔を出していた。
「……なあ、今日さ」
「……なに?」
「言えなかったこと、もう一度だけ言っていい?」
「……どうぞ?」
「俺、お前のこと――」
言い終わる前に、智子が目を閉じた。
カズヤの言葉が止まり、ふたりの距離が一瞬だけ縮まる。
だが、寸前で――
「……無理、やっぱ無理!」
智子がバッと立ち上がった。
「ご、ごめん!あんたが悪いんじゃない! でも……!」
「わ、わかった。こっちこそ焦った」
「……バカ」
そう言って、赤くなった顔を見せないように背を向ける智子。
カズヤは、どうしようもない笑みを浮かべていた。
「……でも、いつかリベンジさせてくれ」
「……しらない」
けれど、足を止めずにその背中は少しだけ、揺れていた。
一方その頃、琵琶湖畔では
湖の縁、静まり返った宿の庭。
蘭子は縁側に座り、アイゼンハワードと肩を並べていた。
「……明日でわたしの旅も終わり。
また、あの冷たい家に帰らなきゃいけないのね」
遠くの虫の声が、まるで返事のように鳴いた。
「冷たいのは、家じゃないんだろ?
あんた自身が、自分の気持ちに蓋をしてるだけなんじゃないのかい」
「……そんなに簡単にいかないのよ、現実は」
「それでも君が“君であるため”に旅をしてるなら……
それが、本当の贅沢さ。俺たち魔族にとっても、な」
蘭子は驚いたように横を見て、ふっと笑った。
「アルさんって、ほんと不思議な人ね。
人じゃないけど」
「褒め言葉として受け取っておこう」
蘭子は黙って、夜空を見上げる。
その横顔には、少しだけ涙の痕があった。




