第十一話 幽霊船アーケロンの咆哮
それは、月も星も隠れた、闇の夜だった。
もの凄い濃霧が海上に立ち込め、空と海の境界すら曖昧な世界に、ぼうっと現れた黒い影があった。
波は荒れ狂い、海は怒っているかのようだった。
チビッコ海賊団の子供たちの一人、ランスが叫んだ。
「な、なにあれっ! 海の向こうに……船が浮いてる!」
「ばかな……あそこは何もない海域のはずだぞ」
エリックが望遠鏡を手に取り、霧の中の影を凝視する。
そのときだった。
「グォオオオオォォ……!!」
おぞましい咆哮が、霧の中から響いた。
まるで亡者のうめきが集まり、船の骨に染み込んだような…不気味な声だった。
海が一瞬、静止したように感じられた。
エリックは望遠鏡を下ろし、唇を噛みしめて呟いた。
「……あれは幽霊船。伝説の海賊の亡霊が乗っているんだ」
グレイスが煙草を指で弾いて、不敵に笑った。
「ふん。幽霊なんて、ぶん殴れば黙るでしょうよ」
マーリンがそっと止める。
「ちょっと待ってくださいまし。あのおんぼろ船だと私の魔法で挑めば、船ごと消し飛びかねませんわ。お留守番、しておきますわ……って、聞いてるんですの?」
「黙ってろ、スッピンおばさん」
グレイスがマーリンを無視して、背後のエリックに言った。
「エリック、お前、行ってこい。修行のチャンスだよ」
「母ちゃん、こりゃあ……なかなか楽しそうじゃねえっすか」
エリックが手斧を肩に担いで、霧の奥を見据える。
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名前:エリック(海賊戦士)
レベル:28
体力:520
攻撃:480
防御:230
素早さ:420
魔力:0
賢さ:420
運:283
この世界で海賊女王 グレイス・オマリーの長男でチビッコ海賊団のリーダー
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「心配ない、俺たちもついていく」
勇者アルベルトが真剣な顔で前に出る。
「私も共にまいります。神の導きがあるなら、恐れることはありません」
シスターマリアも胸に十字を切る。
そして、俺はもちろん幽霊船へ行きます。シスターマリアを亡霊から護ります。たぶん毒針効くよね。幽霊だけど
一方、脳みそ筋肉バカのバルドルは青ざめていた。
「お、俺はちょっと…その…幽霊系は、無理……こ、子供の頃、怖い絵本見てトラウマで……!」
肝心なところで役に立たないバルドルであった。
こうして、幽霊船アーケロンへの探索が始まった。
乗り込んだ瞬間、空気が変わった。
潮風も止み、音も消え、まるで時間そのものが止まったような感覚。
「寒っ……なんだよこれ」
俺がそうつぶやくと、船の奥から、カチャ……カチャ……と不気味な音が響く。
骸骨の姿をした亡霊たちが、黒く澱んだ空間から現れる。
装備は錆びた剣と盾、骨の鎧。だが目だけが赤く、妖しく光っていた。
「うわっ……! なんか出たぁあ!!」
俺が叫ぶと、エリックが前に出る。
「来たな……スカル系モンスターっすね!」
骸骨の一体が、低くしゃがれた声で呟く。
「……宝を返せぇ……奪ったあの女に伝えよ……この船は、まだ終わっては……いないのだ……」
別の亡霊が、船のマスト上から這い降りてくる。
「……あの女の息子か……ならば、お前の血で償えぇぇ!!」
「来るぞ、構えろ!」
アルベルトが剣を抜き放つ。
エリックも手斧を回し、低く構える。
「俺の本気を、見せてやるっす!」
海と霧に包まれた幽霊船で、静かなる死者との激突が始まった!