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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第1話 くたびれたスーツと、夏の招待状

挿絵(By みてみん)

蝉が鳴いている。

梅雨も明けた七月、トキオー地区のオフィス街の昼下がり。

熱気がアスファルトを揺らし、スーツの背中に容赦なく汗が張り付く。


「カズヤくん、資料の提出先、間違ってるじゃないか!」

「すみません……すぐ修正して──」

「“すぐ”じゃないよ。もうすでに遅いんだよ、君の“すぐ”は!」


会議室に響き渡る怒声。

営業部に配属されたばかりの新入社員・加瀬カズヤ(22)は、

頭を下げながら、自分のネクタイの結び目を無意識に握りしめていた。


「(……これが、大人ってやつかよ)」


小学生のときに「大人になったら自由になれる」と思っていた。

中学では「大学生になったら、恋愛もできる」と思っていた。

大学では「社会人になったら、お金も自由も手に入る」と思っていた。


どれもウソだった。


帰り道、スマホが震える。

見知らぬ番号からの着信かと思ったら、懐かしい名前だった。


【着信中】

【長瀬達也】


「ん、先輩……?」


電話を取ると、豪快な笑い声が耳に飛び込んできた。


「おーいカズヤ! 社畜生活どうよ! 生きてるか!?」


「……ギリ、まだ……」


「だろうな。よし、じゃあ夏祭り来い。由比ヶ浜。今週末な!」


「えっ、急すぎる……」


「いいから来い! 祭りには浴衣の女の子もいるし、うちの妹にも会わせる。人生変わるぞ」


「えっ、なにそれ……やだなぁ……」


「やだなって言っても、もう予定に入れといたからな。んじゃ!」


プツッ


通話が終わった。

画面に映る「通話終了」の文字と、頭の中の「疲れ」が、同じくらい空しく消えた。


「……ま、いっか」


その夜。

風呂あがりのカズヤがぐでーっとリビングで倒れていると、

唐突に、黒マントの魔族がベランダから入ってきた。


「おーい、カズヤ~ パンあるか?」


「……アルおじさん。なんで窓から入ってくるの……鍵開いてるでしょ……」


「鍵を開けるという行為がもう億劫なんだよこの歳になると。470歳なめんなよ」


「はいはい。で、今日はなんの用?」


「お前、休み取ったんだって? よかったな。人生棒に振る前に一回くらい祭りでも行っとけ」


「なんで知ってるの」


「魔族の耳は地獄の電波を拾うのさ」


「その設定、初耳……」


「つーわけで、俺も行くぞ。由比ヶ浜とやらに」


「えっ!? 来るの?」


「当然だろうが。孫が女の子と夏祭りだ? ジジイが見守らずにどうする!」


「いや、別に“女の子と”って決まったわけじゃ──」


「決めろ。恋をしろ。燃えろカズヤ。なにしろお前は──」


「わかったわかった!! じゃあ明日準備するから!!」


次の日の朝、

カズヤはグリーンのボストンバッグを肩にかけ、

アルおじさんはデカいトランク(中身はパンとフィルムカメラ)を抱えて、

江ノ島行きの電車に乗った。


「……なんか、こういうの、修学旅行みたいだな」


「人生はな、修学旅行の延長だよ。恋をして、失敗して、パンを焦がして、笑って死ぬんだ」


「……パン焦がすのはアルおじさんだけだよ」


「失礼な!」


車窓から差し込む日差しが、2人の顔を照らしていた。

孫カズヤとアルおじさんの旅が始まる。


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