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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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【最終話】 ラジオから流れる「私の愛した魔獣おじさん」

SAGA島の夏が終わり、海の色も少しだけ濃くなった頃。

アイゼンハワードは、いつものように港のベンチでパンをかじっていた。


潮風とパンの香り、そして空っぽの隣の席。

隣にいたはずの“あの子”は、もういない。


「やっぱり、さびしいもんだな……」


つぶやく声も、波にさらわれていった。


魔獣おじさん、ひとり

「おじさん、今日はカレーパンですか?」


パン屋の少年が声をかける。


「ん? いや、今日はジャムパンだ。……たまには甘いやつもな」


「へぇ〜。MADOさん、テレビに出てましたよ。すっごく綺麗だった!」



挿絵(By みてみん)



「……そうか」


「あの人、ここにいたんですよね? ほんとだったんだ……」


「そうさ。おじさんと……一緒に、パン焼いてたんだ」


「えっ、歌姫が!?」


「ま、焼いてたっていうか、焦がしてたっていうか……」


少年が笑う。おじさんも少しだけ、笑った。


その夜。

SAGA島の唯一のラジオ局、「SAGA夜のローカル放送局」にて、特別番組が始まった。


『今夜だけのスペシャル・リリース!

魔界の歌姫・MADOさんの新曲、タイトルは、

“私の愛した魔獣おじさん”!!』


パチッ、とラジオのスイッチを入れたアイゼンハワードの指が、止まる。


(……まさか、タイトルで呼ばれるとはな)


笑いそうになったが、胸の奥がじんわりと熱くなる。


スピーカーから、イントロが流れる。

懐かしい声が世界へ、そして、おじさんの心へ、響きはじめた。


パンをくれた日も、

 魔獣に乗って空を飛んだ日も、

 誰にも言えなかったけど


 あの日の私、

 名前も失って、

 あなたに出会って、生まれなおした

 

 だけどおじさん、

 あなたは言ったね

 「夢は戻るものじゃない、追うものだ」って


(あのとき、そんなキザなこと言ったっけか……)


だから私は歌う

 涙も笑いも風に変えて

 あなたがいた夏を、焼きつける

 

 私の愛した、

 魔獣のおじさん

 世界で一番、やさしいモンスター


ラジオが終わったあと、アイゼンハワードは、

ひとつ、大きく息を吐いて、空を見上げた。


「……いい歌だな。

 まったく、俺のことを“やさしいモンスター”だとよ」


誰もいない港に、ひとり、苦笑いを浮かべる魔獣おじさん。


でもその目元は、少しだけ赤かった。



次の日。


村の子どもたちが言った。


「ねぇ、おじさん! 昨日のラジオ、MADOの歌聴いた!? 泣いたでしょー!」


「泣くわけねえだろ、バカヤロウ……」


そう言って、くるっと背中を向けるおじさんの肩が、すこしだけ震えていたのを、アルおじさんは、誰も言わなかった。




『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ2〜歌姫の初恋 〜』

―完―

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