第十話 海底からの刺客
朝焼けの光が海面に反射する中、海賊船はゆっくりと進んでいた。
その静寂を破るように、船底から――異様な気配が立ち上った。
ゴゴゴゴゴ…!
「……ん?なんだこの音は……?」
俺がデッキに出た瞬間、海の底から巨大な影が現れた。
「で、でかっ……!」
それはまるで暗黒の大穴が浮かび上がってくるようだった。
そして長男エリックが、双眼鏡をのぞいたまま青ざめた顔で叫んだ。
「クラークだぁあああああ! 機雷班、準備せよ!! 急げっ!!」
船底から現れたのは、無数の触手をうねらせた深海の殺戮兵器・クラーク。
直径20メートルはある本体に、艦船を容易に引き裂く吸盤つきのシュク手が伸びる。
名前:クラーク
体力:1500
攻撃:800
防御:240
素早さ:10
この世界で一度狙った獲物は逃さない。シュク手で捕食し、墨で視界を封じる。水圧を操り船を傾ける能力ある。
エリックが冷静に指示を出す。
「右舷45度、主砲発射準備! 敵の触手に集中砲火だ!機雷班は起爆距離まで引き寄せろ!あの墨に入ったら終わりだ!」
「了解!」
「はい兄ちゃん!」
子供たちが慌てて機雷や大砲の準備を始めるが――
ググググ……!
「うわぁああああ!」
船がグラリと大きく傾いた!クラークの触手が船の下部に巻き付き、ゆっくりと沈めようとしている。
「もう時間がねぇ……俺たちがやるしかない!」
俺が毒針を構えたとき。
カツン…カツン…と裸足でデッキを歩く音が響いた。
「んん……朝からうるさいですわねぇ……」
寝ぼけ眼で、髪もボサボサ、すっぴん姿の黒魔術師マーリンが現れた。
「なんだよその顔……」
グレイスが鼻で笑う。
「すっぴんは酷いねぇ、あんた」
「……今、何か仰いました?」
マーリンの額に青筋が浮かぶ。
「あんたの顔のことだよ!」
マーリンはイラッとした顔で天を仰いだ。
「……朝からむかつきますわね、あのイカを焼いて差し上げましょう」
マーリンの周囲に魔法陣が浮かび上がり、空気がビリビリと震え始めた。
「――聞け、天空の星たちよ。我が言葉をもって星を導け、
星辰の王よ、凍てつく海に眠る業火よ、我が杖に応えよ!」
「《メテオクラッシュ・ノヴァインフェルノ》!!」
「天よ裂け! 星よ砕け! 終焉の光をこの大海に降り注げ!」
バリバリバリィィッ!!!!
天から降り注ぐは、直径10メートルの灼熱の彗星。それが次々とクラークの巨体に直撃。
ズドオオオオォォン!!!!
「ギィィイイイイィィィィ!!」
クラークがメラメラと焼け焦げ、暴れる触手がバチンと船体から剥がれ落ちる。
海上に次々と水柱が立ち、しばらくしてクラークは動かなくなった。
静まり返ったデッキ。朝日がもう一度射し込む。
マーリンはひとつあくびをすると、髪をくしゃっと撫でて微笑んだ。
「……朝食は、イカの丸焼きですわ。さぁ子供たち、召し上がれ♡」
「うおおおおお!うまそう!!」
「焼きイカー!!」
「タレつけてー!」
子供たちの喜びと元気な声が甲板に聞こえる。
「イカだけに、イカすオネェさんよ」
そう言ってマーリンは、また寝室へと戻っていった。