表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/1395

第七話 壊したやつにしかできない再生

サーテンリが残した村 スフェラ村。


魔法を持つ者も、持たぬ者も、ともに学び、生きる場所。

リーディオ・ゼロは、その村の再建と“教導”に尽くした。


ゼロの能力者が、今や修復と教育の賢者として語られるようになって、


二十年が月日が経った。


それは、魔族にとってはほんの2年ほどの時間。

だが人間にとっては、人生を変えるには十分すぎるほどの歳月だった。


ある夕暮れ、村の丘の上に、ふたりの男の姿があった。


ひとりはリーディオ・ゼロ。

白いローブに皺が増え、白髪も肩まで伸びている。


挿絵(By みてみん)


もうひとりは、黒マントを羽織ったいつもの中年男

アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。


挿絵(By みてみん)



変わらぬ顔で、口に咥えた巻き煙草に火をつけていた。


「……あれから、もう二十年か」


リーディオがぼんやりと夕陽を見つめながら呟く。


「まったく、村のガキどもが今や教師になってるんだから、時の流れってのはすごいな」


「……ほんとだよ。俺が破壊して、焼いて、拒んで……あの時の子どもたちが、今、俺と肩を並べて“教えてる”」


リーディオの声は、少し震えていた。


静かな風が、丘の草をなでていく。

遠く、村の小さな灯がぽつぽつとともる。


「アイゼンハワード。お前は……ずっと見ててくれたな。どれだけ迷っても、間違えても、黙ってそばにいた」


「見てたっつーか……まぁ、娘んとこに通いながら、ついでだよ」

 そう言ってアルは照れくさそうに煙を吐く。


「娘の……ミドリも、もうおばあさんになった。あの子が笑うたびに思うんだ。人間にとっての二十年って、本当に重いんだなって」


リーディオは、ふっと目を閉じた。


「俺は……償えたのかな。


 罪ってやつは、終わるものなのか?」


 その言葉に、アルはしばらく黙ってから、静かに口を開いた。


「終わらねぇよ、罪ってのは。


 消えねぇし、ゼロにもなんねぇ。


 けどな“生き方”で薄めることはできる」


「……“薄める”?」


「そうだ。お前が壊したもんは、確かに戻らねぇ。

でもその代わりに、お前が直したもの、教えたこと、救ったガキの未来が、今、ここにある」


アルは足元の草を引き抜き、ぱちんと手で弾いた。


「それで十分だろ。“壊した過去”と“築いた未来”の重さが、今やっと、同じくらいになったんだよ」

リーディオはその言葉を、何度も心の中でなぞった。


「……同じくらい、か」


「そう。俺たちは“全部戻す”なんて無理な話に、ずっともがいてんだ。

でもな、“壊したやつにしかできない再生”ってのも、確かにあるんだよ。

お前は、よくやったよ」


その瞬間、リーディオの目に小さな涙の光がにじんだ。


そして、ぽつりと漏らす。


「……ばあちゃん、聞いてたかな。俺、今……

 “命を拒んだ”頃の自分とは、もう違うって、言えるかな……」


アルは帽子を目深にかぶり直し、煙草の火をぽんと指で消した。


「言えるさ。お前が自分で言えば、それで十分だ」


丘の上、暮れなずむ空。

紅に染まる雲の下、二人の男の影が、長く、穏やかに並んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ