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【ランキング12位達成】 累計57万5千PV 運と賢さしか上がらない俺は、なんと勇者の物資補給係に任命されました。  作者: 虫松
『アイゼンハワードの魔族のおっさんはつらいよ』

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第五話 壊れたものを抱えながら出所

魔界第七階層 ラグナ獄。

 

そこは光の差さぬ地下深く、魔界で最も罪深き者が投獄される監獄都市だった。

魔力抑制枷、重力反転室、時間干渉牢……希望も言葉も、すべてを沈黙で包み込む灰色の世界。


だが今、その中心で静かに座る男がいた。

髪を短く刈られ、褪せた囚人服に身を包むその男

かつて「ゼロの能力者」と恐れられた男、

リーディオ・ゼロ。


挿絵(By みてみん)


彼は30年前に黒と白の賢者サーテンリを殺した。

祖母であり、師であり、唯一“完全に愛された”存在。

それでも、殺した。


裁かれ、収監され、30年。

永遠の魔族にとっては一瞬の懲役。

だが、その30年が、彼にとっては地獄だった。


その日、面会室に現れたのは、古めかしい黒いコートを着た中年男だった。


アイゼンハワード・ヴァル・デ・シュトラウス。

魔界元貴族、元四天王、現在保護観察官、通称「アルおじさん」。


「よォ。待たせたな」


リーディオは、変わらない口調に小さく笑った。


「アルおじさん……また、そのダサい通称で来たの?」


「いい通称だろ。460年使ってんだ。今さら変えられるかっての」


アイゼンハワードは椅子に腰を下ろすと、机に肘をついてリーディオを見た。


「明日から、お前の保護観察官になる。ここじゃなくて、“外”でな」


リーディオは目を伏せた。

出所の時が、とうとう来たのだ。


「……三十年。長かったのか、短かったのか、わかんねぇ」


アルがぼそりと呟く。


リーディオは、口元に皮肉を浮かべながら答えた。


「魔族にとっちゃ、ただの昼寝かもしれない。

 でも……人間だと、長いんですよ、アルおじさん」


その言葉に、アルの表情がわずかに揺れた。


そうだ。

自分も、人間の娘・ミドリと再会して、初めて「時間の重さ」に気づいた。

永く生きたからこそ、取りこぼしてきた命がある。

そして、もう取り戻せないものもある。


「……サーテンリのこと、聞いていいか?」


「もう全部話した。判決も出た。赦されてはいないけど、受け入れた」

 リーディオは、淡々とした声で言った。


「でもな……あの人が遺した“書”を、俺は30年かけて読み返した。

 毎晩、毎晩、魔力も何もないこの獄中で。

 そのうち、文字じゃなく、あの人の声で聞こえてくるようになった」


「……そして?」


「殺した俺にすら、“教えてくれてた”んだ。

壊すことは簡単。でも、壊した後に何をするか。それで、生きた意味が変わるって」


アイゼンハワードは深く息をついた。

そして、小さな懐から一本の紙巻煙草を取り出し、火をつけた。


「なら、やるしかねえな。壊したものを、今度は直す番だ」


「……修復なんて、できるのかよ? 殺したんだぞ、俺は」


「全部は無理だ。だが、“壊れた自分”から逃げねえ限り、やり直せる。

 俺もな……娘がいる。

 薬に溺れて、何もかも失いかけてた。けど、少しずつ、戻してんだ」


「……へぇ。意外といい父親じゃねぇか」


「うるせぇよ。娘からは“おっさん”呼ばわりだ」

煙草の煙が、うっすら笑うように宙に浮いた。


「明日からお前には、修復の任務をやらせる。かつて自分が壊した町、呪文、関係、記録、すべて。

一つひとつ回って、“償い”をしてこい。それが俺とお前の“保護観察契約”だ」


リーディオは立ち上がり、深く一礼をした。


「……じゃあ行こうか、アルおじさん。

 俺の“生き直し”に、付き合ってくれよ」


「もちろんだ。おっさんはな、何度でも付き合うぞ。

 人生ってのは……だいたい二周目からが本番だからな」


監獄の扉が開き、ふたりは魔界の外の光へと歩き出す。

壊れたものを抱えながら、それでも、前へ。


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